「食をテーマに命を考える」小山薫堂さんプロデュース万博館 内覧会/大阪万博の食品ロス対策はどうなる
こんにちは。ニュースレター「パル通信」にご登録いただき、ありがとうございます。18日から24日まで、取材や出版社打ち合わせのため、奈良に滞在しています。3月24日(月)13:10-13:35ごろには、全国で聴くことのできる京都リビングエフエムに出演することになりました。
3月10日に出版した、ちくま新書『私たちは何を捨てているのか ー食品ロス、コロナ、気候変動』(筑摩書房)の内容や食品ロスについてお話しする予定です。感想をお寄せいただいた方、ありがとうございました。引き続き、本のご感想やコメントを楽しみにお待ちしております。
ニュースレター「パル通信」236号では、2025年4月13日から開催される大阪万博の会場訪問記です。メディア向けに開催された、小山薫堂さんがプロデュースしている万博パブリオンの内覧会の様子を写真入りでお伝えします。また、万博会場の食品ロス削減対策について取材した内容をご報告します。
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茅葺(かやぶき)のEARTH MART=空想のスーパーマーケット
大阪万博会場の最寄駅は夢洲(ゆめしま)駅です。Suicaなどをタッチする改札は20近く用意されており、構内は非常に広く、改札を出てすぐのところに小さなローソンがあります。

夢洲(ゆめしま)駅(筆者撮影)
小山薫堂さんがプロデュースしたパビリオンは「EARTH MART(アースマート)」。アースマートとは、食と命の大切さに触れることのできる、空想のスーパーマーケットです。

EARTH MART外観(筆者撮影)
建物は、隈研吾さんの事務所の若い建築家に依頼し、50作品の中から10作品を選び、最終的には循環の暮らしの象徴である「里山の暮らし」を描いた、茅葺(かやぶき)の屋根の建物に決定したとのことでした。
茅(かや)は、日本の5つの地域から集めました。
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大阪府の淀川区
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滋賀県近江八幡市の丸山町
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岡山県の蒜山高原
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静岡県の御殿場
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熊本県の阿蘇市
2019年からの5年間で魂をこめて「いただきます」を言えるようになった
小山薫堂さんがこのプロジェクトに取り組み始めたのは2019年だそうです。食をテーマに「命(いのち)」を考えることを目指しました。人間の平均寿命は80年前後。その80数年の命を守るために、いったいどれだけの命をいただいているのか、ということを考えれば、日常の「食」への感謝も深まる、と語ります。

小山薫堂さん(筆者撮影)
今、世界ではさまざまな争いごとが起きています。他者を傷つけることも多くあります。そのような中、「食」が、他者を慮るきっかけになるのではないか。小山さんは、プロジェクトを始めてから今までの5年間で、「いただきます」という言葉を、誰よりも魂こめて言うことができるようになったと話していました。
ただ、「命に感謝する」というと、ともすると説教じみてしまうかもしれません。そこで、スーパーマーケットという設定を考えました。スーパーマーケットは、ワクワクしながら行く場所です。普段のスーパーでは「命の重みを考える」機会はないかもしれません。そこで、この「EARTH MART(地球の市場)」では、命の重みと価値を考えてもらうきっかけになるよう、考えました。
EARTH MARTは4つのフロアが展開
「EARTH MART」のパビリオンでは、次の4つのフロアが展開されます。
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プロローグ
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いのちのフロア
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未来のフロア
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エピローグ

パビリオン全体の見取り図(筆者撮影)
1つめのプロローグでは、この館のコンセプトを知ってもらう映像を見てもらいます。
内覧会当日は、おそらく100名以上のマスメディアが来ていましたが、中でも映像やスチール撮影のメディアに人気があったのは、卵のオブジェでした。
日本人は、一生の間に28,000個もの卵を食べるそうです。その28,000個分の卵のオブジェを天井から広げ、下には「28,000個の卵を使って目玉焼きを作ったらどれくらいの大きさになるか」を計算した上で、目玉焼きを模した模型「一生分のたまご」が飾られています。

一生分のたまごのオブジェ。奥に見えるのが世界の人々が食べている食べ物と年間消費量のパネル(筆者撮影)

一生分のたまごのオブジェと取材しているマスメディアの人たち。右奥に見えるのが魚の展示(筆者撮影)
いのちのフロアの全体像
「いのちのフロア」には、卵のオブジェを含め、次のような展示があります。
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野菜の一生をあらわすオブジェ
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地球で最も食べられている魚、イワシ(10万個の卵から、食用となるのは、わずか3匹)
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家畜のいのち(肉の模型の上に、牛たちの映像が流れている)
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世界の人が食べる食べものの年間消費量(いのちのショーケース)
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世界の食卓の写真
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日本人が食べる10年分の食材が入る「いのちのカート」
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自分を映すと生き物の映像が映し出される「いのちのレジ」(食べたもので自分はできている)
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世界に実在する家族の、一週間分の食材をあらわしたレシート

いのちのフロアの展示(EARTH MART事務局配信のプレスリリースより)

「いのちのフロア」の展示(EARTH MART事務局配信のプレスリリースより)
メディアからの質疑応答で、小山薫堂さんはどの展示がお気に入りか、という質問が出ていました。「野菜のいのち」や「卵」もお気に入りだそうですが、いのちの重さをはかる「はかり」も気に入っていると答えていました。食べ物を載せると、普通のはかりならグラムが表示されます。ここでの展示のはかりは、いのちの重さを示す数字があらわれます。たとえば、はちみつの模型を載せると、「5」という数字が表示されます。これは、みつばちが、一生かかって集めることのできるはちみつの重さ(グラム)です。

はちみつの「いのちの重さ」(筆者撮影)
「未来のフロア」には2025年10月に100歳を迎える「すきやばし次郎」の小野二郎さん(の映像)が、寿司を握ってくれるカウンターがあります。映像の力で、あたかもそこで小野二郎さんが寿司を握ってくれているようなリアルな印象をもたらしています。

すきやばし次郎の小野二郎さんが(映像で)握ってくれる寿司カウンター(筆者撮影)
2024年7月23日に配信した記事では、世界に共有したい日本の食材25を紹介しました。その25の食材、「EARTH FOODS」の展示もあります。

EARTH FOODS 25の展示(筆者撮影)
鮨カウンター、EARTH FOODSのほか、「未来のフロア」には次のような展示があります。
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進化する冷凍食
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味を記憶し、再現できるキッチン
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みんなが幸せになる未来のお菓子
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UMEBOSHI BANPAKU-ZUKE 2025→2050

「みらいのフロア」の展示(EARTH MART事務局配信のプレスリリース)
UMEBOSHI・・・というのは、カードを受け取った人は、25年後の2050年に、和歌山県「紀州梅の会」が漬けた梅干しを1個もらえる、というものです。いわば「食のタイムカプセル」。ここも、小山薫堂さんお気に入りのスポットだと話していました。
これは1970年に開催された大阪万博で、両親から何かおみやげをもらったものの、何も覚えていなかった経験から考えたそうです。もし、今の子どもが、祖父母や両親からこのカードを受け取ったら、25年後に紀州の梅干しを1個だけ受け取ることができる。たった1個かもしれないけれど、電気の力を使わずに25年以上保存できる、貴重な梅干し。子どもたちには日常の食を考えてほしいと薫堂さんが語っていました。

25年後の2050年、このカードを持っていれば、紀州の梅干しを1個もらうことができます(筆者撮影)

紀州の梅干しを漬ける樽。この樽を開けるのは25年後の2050年!(筆者撮影)
最後のコーナーは「エピローグ」。地球の映像が示され、その映像を囲んで来場者が丸く囲む形になっています。いわば地球が1つの食事のようなもの、ということを感じてほしいとのことでした。
取材を終えて、翌日ふと思ったのは、「お米の展示があるといいな」ということです。EARTH FOODS 25の中に「米粉」はあるのですが、コメそのものではない。今こそ、日本で大切な食材で、海外に誇れる食材の一つが「コメ」ではないかな、と感じました。
「食品ロス」が問題となる要因はいくつもありますが、食材のもとが「いのち」であることを忘れているのも一因だと思います。万博に関しては予算も含めて多くの意見がありますが、この展示を通じて、こどもたちが「食=いのち」であることに気づいてほしい。そして食べものを無駄にしないでほしい。そう願います。
ムーンショット評議委員としてプレゼンテーションを聞いたことのあった、山形大学の古川英光(ひでみつ)先生が、今回、冷凍食品の展示の監修をなさったとのことでした。初めてお会いできてうれしく思いました。先生から「本と一緒に写真を撮りましょう」と言ってもらい、撮影しました。今日、判明したのですが、私がJICA海外協力隊時代に同期だったFurukawaさんは、驚いたことに、古川先生の兄弟でした。

古川英光先生(左)と筆者(関係者撮影)
大阪万博の食品ロス削減
2023年7月26日、環境省の、当時の食品ロス担当の方から紹介を受けて、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会の持続可能性局長、永見靖さんとzoom会議をしたことがありました。大阪万博の食品ロス削減対策についての取材です。
当時は万博の詳細が固まっていませんでした。今回は会期1ヶ月前を切っているので、さすがに決まっているだろうということで、元環境省の永見靖さん、民間企業から出向しておられる大渕隆文さんのお二人に食品ロス削減対策について伺ってきました。
有識者会議では、崎田裕子さんや、元京都大学の浅利美鈴先生、大正大学の岡山朋子先生、同志社大学経済学部の原田禎夫先生などに意見を聞きながら進めてきたそうです。

万博で食品ロスを担当している大渕隆文さん(筆者撮影)
東京五輪では、開会式の時、ボランティア向け弁当が30万食(税金およそ3億円分)処分されたとのことで批判がありました。今回の大阪万博では、開会式の時のスタッフの食事については「未定」とのこと。
オリパラの時にも使われた「ナッジ」という行動変容の手法は、今回も使われます。食べ切りを促し、食べ残しを減らすのが目的です。
また、余った食材などはこども食堂やフードバンクに寄付すると書類に書かれてありました。では具体的にどの団体に寄付するかは、まだ決まっていないそうです。
会場内にある食堂や飲食店で出た食事について、持ち帰りは「基本禁止」。いわゆる日持ちの短いデイリー食品(日配品)については積極的な活用策が決まっておらず、会期後に余った加工食品をフードバンクなどに引き取ってもらうという形を考えているようでした。
フランスで開催されたパリ五輪では、会期前に五輪委員会が3つのフードバンクと協定を結び、余剰食品を受け取る仕組みを構築していました。
大阪万博では、オリパラの経験を踏まえ、具体的に決まっていることを期待しましたが、そこまでではないようです。
食べ残しをコンポストや燃料にする取り組みは計画されているようでした。特に生ごみに関しては分別回収し、計量した上で、コンポストや燃料にリサイクルされます。「会期中に来れば、もう少し進んでいるかも」とのことでした。
現場を歩くときはヘルメットをかぶりました。まだ工事中のところも多かったです。

工事中のフィリピン館(筆者撮影)
2024年7月に配信した記事「世界に共有したい日本の25の食材 小山薫堂プロデュース・シグネチャーパビリオンと食業界の有識者らが選定」についても併せてお読みいただければ幸いです。
今日の書籍
2021年にノーベル平和賞を受賞した、フィリピンの女性ジャーナリスト、マリア・レッサさんの著書です。2023年4月に初版が出たこの本を薦められながらも、今まで放置しておりました(すみません)。
「私の国で起きていることは、いずれ世界のほかの国でも起きる」との言葉通り、再びトランプ政権となった米国でも同様のことが起きています。フェイクニュースや偽(にせ)の情報が人々の考えや行動に大きな影響を及ぼしている、ということです。
第一次トランプ政権の時代、トランプのFacebookの「いいね!」は、大半が米国外でつけられたものだったとのこと。トランプのフォロワーの27人に1人がフィリピンに住んでいることが、報告書で明らかになっています。
筆者の言葉「私たちは戦い続けなければなりません。信念を持ち続けなければなりません」が響きます。どれだけ信念を突き通せる人がいるでしょうか。誰かに遠慮して口を閉ざし、誰かにおもねる人が多いのでは?この本を読むと、どれだけ自分が甘い人間かがわかります。
戦わなければ、まだ残っているほんとうの選択肢から目を背けることになる。ひと握りの勇気ある、高潔な魂の持ち主たちは、確固たる信念にその命を賭けている。
今日の映画
監督:塚本連平
出演:笑福亭鶴瓶、原田知世、重岡大毅、上白石萌音ほか
実話をもとにした内容の映画です。小学校2年で学校へ行けなくなり、文字の読み書きができない保(たもつ)さんと、その奥様、皎子(きょうこ)さんの物語。若い頃の夫婦を重岡大毅さんと上白石萌音さん、年とってからの夫婦を笑福亭鶴瓶さんと原田知世さんが演じます。よい評判を聞いていたので観に行ったら、これは奈良を舞台にした映画だったのですね。奈良女子大学卒業生の自分になじみのある奈良公園や飛鳥荘など、奈良市内のなつかしい場所がたくさん出てきました。
奈良滞在中に映画館へ行ってみたら、関東の映画館で観るときより観客のノリがいい!観に来ていたのは高齢者が多かったですが、ユーモアにはすぐ反応して笑うし、どんなふうに感じたか、喜怒哀楽を示してくれるので、もし出演者がこの場にいたらうれしいだろうなと感じました。奈良を舞台にした映画を奈良の映画館で観ることができてよかったです。最後の方では涙を流している人も何人もいました。
編集後記
18日から24日まで奈良に滞在しています。3月23日(日)午後は、奈良蔦屋書店のそば、コンベンションセンターで開催される、鈴木宣弘先生の講演会を聴きにいきます。タイトルは「みんなで考えよう!日本の食料自給率問題」。鈴木先生は、元農林水産省官僚で、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科の特任教授です。20日は大阪で講演されており、21日は三重県で講演。ほぼ連日、全国のどこかで講演している引っ張りだこの講演者です。私は急遽、関係者席に座らせてもらう予定です。お近くの方、もしよかったらお申し込みください!マルシェは22日・23日とも開催予定です。
2025年3月21日
井出留美
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