食品ロスを減らすメリット、個人・地域・国家レベルの解決策とは 世界資源研究所の提言

ニュースレター「パル通信」284号では、世界資源研究所の発信を翻訳してお伝えします。食品ロス削減による世界的な利益とは何でしょうか。また、個人や地域、国家レベルでできる解決策について解説します。
井出留美 2025.12.16
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ニュースレター「パル通信」284号では、世界資源研究所の直近の発信内容について、翻訳した内容に筆者の注釈をくわえてお伝えします。食品ロスを減らすことにより世界的な利益とは何でしょうか。また、個人や地域、国家レベルでできる解決策について解説します。

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<お知らせ>

○12月5日に90分の講演、6日に100分の講演をした後、12月7日から声が出なくなりました。12月16日現在、10日経ちましたが、声が出ません。その件に関して、Facebookに投稿したところ、たくさんの方から、解決策や親身になったメッセージを送っていただいています。どうもありがとうございました。さきほど発声の専門病院で診療と点滴、リハビリを受けてきました。

12月10日の講演は小さな声+マイクと筆談で、12月13日はzoomに切り替え、最初の職場の時の上司が急遽つくってくれた講師紹介動画を流し、講演原稿をAIに読んでもらい、質疑応答はチャットボックスに書き込んで先生に読み上げてもらいました。15日の千葉県市原市議会での講演は、講師紹介動画を流し、講演原稿をAIに読み上げてもらいました。大先輩が急遽サポートへ駆けつけてくださいました。密度の濃い内容でしたが、AIの読み上げは精度が高いといいつつも、冗長な部分があり、思いを思うように伝えられないのがもどかしく思いました。辛抱強く耳を傾けてくださった方に感謝申し上げます。21日、22日もどうぞよろしくお願いいたします。

○12月9日に出版した13冊目の著書『おやつのおぼうさん』(くもん出版)を記念して、12月21日(日)15時より、奈良・東大寺で出版記念イベントを開催します。ハイブリッド開催ですので、遠方の方もオンラインで参加可能です。参加費無料。寄付つきチケットでしたら後日のアーカイブ視聴も可能です。よかったらどうぞ!

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食品ロスを減らすことによる世界的な利益とは

世界で生産される食料のうち、重量ベースで約40%が、農場から食卓までの過程で廃棄されています。この40%があれば、世界中で食料不安に苦しむすべての人々に、1日3食を1年間、毎日提供することができます。しかも、それでも余るほどです。

食品廃棄の現状が続けば、この廃棄量は2050年までに今の2倍に増えてしまいます。

食品ロスを減らすことで、より多くの価値を引き出せることを想像してみましょう。

たとえば、年間1兆ドルのフードウェイスト(食品ロス)で失われるお金が、もし失われなければ、世界の保健医療に対し、今より10%多く投資することができます。

食品ロスを減らせば、その分、医療や教育、福祉、雇用などに投資できるのです。

今回は、食品ロスの課題の規模と、食品ロス(Food Loss and Waste: FLW)を減らすことによる世界的な利益、そして個人・地域・国家レベルでの解決策について掘り下げてみます。

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Q. 食品ロス(Food Loss and Waste: FLW)の原因は何でしょうか?
A. 食品ロス(FLW)のうち、フードロス(Food Loss )とフードウェイスト(Food Waste)は、しばしば一緒に語られます。でも、これらの用語は、食料システム全体で、異なる問題を指しています。

下のイラストのように、フードロスは、消費者に到達する前までに発生するものを指します。収穫後から配送までの段階で発生するものです。

一方、フードウェイストは、消費者に到達してから発生するものを指します。具体的にはコンビニやスーパー、百貨店、旅館、ホテル、レストラン、飲食店、家庭で発生するものを指します。

国連FAOによるFood LossとFood Wasteの定義の違いについて、office 3.11制作

国連FAOによるFood LossとFood Wasteの定義の違いについて、office 3.11制作

Q フードロスとは何でしょうか?

A. フードロスとは、農場やその周辺、サプライチェーンにおける損失を指しています。たとえば、収穫や貯蔵、輸送中に損失されるものを指しています。

Q. フードウェイストとは何でしょうか?


A. フードウェイストとは、小売段階、外食産業、家庭で発生するものを指します。すなわち、消費者に届いてから発生するものをフードウェイストと呼びます。

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Q. フードロスの主な要因は何でしょうか?

A. フードロスとフードウェイストは、技術的課題から消費者の行動に至るまで、幅広い問題によって引き起こされています。


フードロスの主な要因には以下のようなものがあります。

不十分な技術:道路の冠水や通行困難といった劣悪なインフラは、食料が農場から食卓に届くのを妨げてしまいます。低所得国で起こりやすい問題です。

冷蔵・冷凍設備の不足も、食料を新鮮な状態で市場に届ける上で重大な懸念事項です。
農家は、古くて非効率な機械など、不十分な設備に苦慮し、作物を収穫するのが困難な場合もあります。


適切でない包装:食品の包装は、安全に食べられる期間に大きな差をもたらしています。

過剰包装による環境への影響を懸念する声は当然です。でも、一方、適切な包装によって食料の鮮度保持期間を延ばし、腐敗やそれに伴うメタン排出を削減できる点を忘れてはなりません。
見過ごされがちな事実ですが、食品ロスを廃棄することによる環境負荷は、包装廃棄物による環境負荷よりも大きいのです。したがって、包装の廃棄を少なくするのと並行して、適切な包装を使うことによって、食品の劣化や腐敗を防ぐことも重要です。

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Q.フードウェイストの原因にはどのようなものがありますか?

A. フードウェイストの一般的な原因には以下のようなものがあります。

食料管理の不備:たとえば、調理担当者の技術不足や知識不足による、調理過程での不要な廃棄があります。小売業者が見た目の完璧な農産物しか扱わないこと、農家の過剰生産を受け入れないといった、小売業者の柔軟性に欠ける調達要件などが例として挙げられます。


不適切な需要予測や供給計画:たとえば、小売業者や食料供給業者が需要予測や供給計画を適切に行わない場合にもフードウェイストは発生します。


消費者の行動:家庭でのフードウェイストは、消費者・小売レベルにおけるフードウェイストの大部分を占めています。これは、消費者の、食品ロスの問題の大きさに対する認識不足や、家庭での食料の適切な消費や保存方法に関する教育不足が原因であることが多いです。

フードウェイストは、食料を無駄にすることなど当然だという考え方や態度、賞味期限が切れた食品を食べることへの懸念からも生じます。

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Q. フードウェイストは先進国で多く、フードロスは途上国で多く発生しているのでしょうか?

A. かつては、消費者レベルで発生するフードウェイストは先進国など、高所得国に限定された問題ととらえられていました。農業やサプライチェーンの問題から生じるフードロスは、途上国など、低所得国に特化した大きな問題であるという見方もありました。

でも、最近の研究では、これは事実ではないことが示されています。

国連環境計画(UNEP:ユネップ)の調査によれば、中所得国における食品ロス(FLW)の発生量は、高所得国とほぼ同水準になっています。質の高いデータは少なく限られていますが、この結論を裏付ける十分な情報を得ています。

同様に、世界自然保護基金(WWF)の最近の研究では、農場で発生するフードロスは、中所得国や低所得国だけでなく、高所得国でも問題であると結論づけています。

これらUNEPやWWFの研究は、フードロスとフードウェイストの問題が世界規模で対処されなければならないことを示しています。

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Q. 食品ロス(Food Loss and Waste:FLW)を減らすことによる世界的なメリットとは何でしょう?

A. 国連の持続可能な開発目標(SDGs)が、2030年までに(小売・消費レベルで発生する)フードウェイストを半減させ、フードロスを削減するよう求めるのは当然のことです。なぜなら、食品ロスの削減は、経済、企業と消費者、人間の健康、環境にとって、便益(メリット)をもたらすからです。
(注:筆者は、食品ロスを減らすメリットとして、1.お金の無駄がなくなる 2.環境への負荷が減る 3. 教育・医療・福祉・雇用など、社会のチャンスを得ることができる、と説明しています)
以下、具体的に挙げてみましょう。

世界的な栄養状態と食料安全保障の改善

食品ロスの削減は、増加する世界人口に対し、健康的で栄養価の高い食事を提供する上で大きな役割を果たします。現状では、食料生産量のうち、重量ベースで3分の1が消費されていません。果物や野菜など、栄養価が高く水分の多い生鮮食品は、特に損失や廃棄が生じやすい食品です。

世界では、毎年、食料生産量のうち、40%以上が失われたり廃棄されたりしています。世界中の食料供給の多くを腐らせたり埋立処分したりするのではなく、人々の大切な食料として活用することは、数億人が栄養不良に直面する世界における飢餓対策の重要な戦略であることは間違いありません。

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温室効果ガス排出量の削減

プロジェクト・ドローダウンは、食品ロスの削減は、温室効果ガス排出量削減と気候危機対策における最善の戦略であるとしています。

世界の温室効果ガス排出量の最大10%が食品ロスに起因しています。ですので、食品ロスの問題に取り組まずに、パリ協定の目標である1.5~2℃の気候変動抑制を達成することは不可能です。

食品ロスによる温室効果ガス排出は、消費されることのない食料の生産に費やされたエネルギーや投入物、農地や埋立地で腐敗してしまう食品から発生するメタンによるものです。メタンは、二酸化炭素より寿命が短いものの、二酸化炭素の80倍以上の温室効果を持つ、強力な温室効果ガスです。わたしたちは食品ロスを減らすことで、地球温暖化を促進する温室効果ガスの排出を回避することができます。

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農地・耕作面積の拡大を防ぐ
食料システムの改善は、耕作面積を拡大せずに世界人口の増加に対応する助けにもなります。農業拡大は、温室効果ガス排出の主要因です。農地の拡大は、森林伐採を招くことが多く、これにより、蓄積された二酸化炭素が放出され、土地の炭素貯蔵能力が低下してしまいます。さらに、食料生産の効率化は、森林再生のための農地を開放し、大気から炭素を除去する重要な手段となってしまいます。

食品ロスを減らすことは、結局食べられない食品を生産する農業に伴う温室効果ガスの排出削減につながります。世界資源研究所(WRI)は、食品ロスや廃棄を補うための食料増産需要を減らす取り組みを通じ、土地を開拓しようとする圧力への緩和を、世界的な土地不足に対処する主要戦略として特定しています。

もうこれ以上、土地を開墾しなくていいのです。

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企業・消費者・農家にとっての経済的節約や経済的安定性の向上

2030年までに消費者のフードウェイストを、わずか20~25%削減するだけで、世界は年間1200億~3000億ドルの節約が可能と推定されています。

(筆者注:日本円にして18兆7,000億円から46兆7,600億円に相当する)

この節約効果は、個人レベルでも食料システムレベルでも得ることができます。購入した食品を無駄にせず、より多く消費することで、家庭では食費全体を減らすことができます。回避できるフードウェイストをなくせば、たとえば英国の平均的な家庭では年間700ポンド(870ドル)以上を節約できる。

(筆者注:日本円ならおよそ13万5,600円)

一方、米国では、平均的な米国人が728ドル、4人家族なら約3000ドルを節約することができます。

 (筆者注、日本円で11万3,000円、4人家族なら46万7,607円)

 (筆者注:日本では一人あたり年間31,000円プラスアルファの金額を食品ロスで失っています)

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農家の収入向上

フードロス削減、特に収穫後のロス(市場に出回らない農産物を含む)は、農家の収入向上にもつながります。

多くの農家は最新の設備を購入する資金がないため、手作業や、古くて壊れた設備に頼らざるを得ません。それにより、収穫量が制限されてしまっています。

対象を絞った融資や資金援助により、農家がより良い設備を購入できるよう支援すれば、短時間で、より多く、より質の高い作物を収穫できるようになります。

また、効率化による節約が、農家の収入増加や利益率の増加につながる可能性があります。

小規模農家の中には女性も多くいます。資金調達や新設備へのアクセスから恩恵を受け、それによるフードロスを削減することは、家族を養い、教育し、世話することを強化することにつながります。

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では、具体的にどのようにして食品ロスを減らすことができるでしょうか。

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個人・地域・国家レベルでできる食品ロスの解決策とは

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