ペットボトル水の賞味期限は何が基準?大手メーカー、消費者庁、協会に取材した結果
ニュースレター「パル通信」にご登録いただき、ありがとうございます。
ニュースレター「パル通信」291号では、ペットボトル入りミネラルウォーターの賞味期限は何が基準で決められているのかについて、協会・大手メーカー・消費者庁に取材した結果について解説します。
自治体の説明「ペットボトル水の賞味期限は計量法によるものではない」
2025年12月23日18時30分近く、朝日新聞の方からインタビュー依頼がありました。賞味期限に関する内容です。
その記事は12月29日に朝日新聞デジタル版に掲載され、「好評だった」とのことで、2026年1月16日付の紙面・デジタル版の両方にも「(FOOD発見)賞味期限を考える おいしさの目安、多少過ぎても食べられる 井出留美さんに聞く」と題して掲載されました(1)。
その際、記者の方から教えてもらったのが、静岡県富士市が2025年5月15日付で発表している「ペットボトル入り飲料水の賞味期限に関する誤解への注意喚起」でした(2)。
一部の事業者・消費者の間で、「ペットボトルに入ったミネラルウォーターの賞味期限の表記は、計量法の規定により、内容量が保持される期限(日付)を表示したものである」という誤解が生じているようですが、賞味期限は食品表示法に基づき表示されているものであり、計量法によるものではありません。
ペットボトルに入った水の賞味期限は、計量法によるものではない、としています。
日本ミネラルウォーター協会「水の賞味期限は表示容量が確保できる期限」
一方、日本ミネラルウォーター協会の事務局長、渡辺健介氏は、かつて産経新聞の取材に対し、「水の賞味期限は表示容量が確保できる期限」だと答えています(3)。
「いや、水の賞味期限は、表示された容量が確保できる期限です」こう話すのは日本ミネラルウォーター協会の渡辺健介事務局長だ。(中略)ペットボトルの容器は、通気性がある。すると、水が少しずつ蒸発する。つまり、時間の経過とともに減るのだが、表示と実際の容量が許容の誤差を超えた商品を「販売する」と計量法違反になる。ペットボトルの水の賞味期限は、もっぱら表示と実際の容量の誤差が許容範囲内にある期間、すなわち計量法違反にならない限度を示しているのだ。
自治体の主張「賞味期限は計量法によるものではない」と、業界団体の「ペットボトル水の賞味期限は容量確保期限でもある」という説明は、矛盾しているようです。
私自身、後者の主張をもとに、賞味期限が過ぎたペットボトル水を無駄に捨てないよう、何度も記事で呼びかけてきました。長年、認識してきたのは「ガラス瓶と違って、ペットボトルは容器を介して中の水が減っていくので、計量法違反にならないよう、容量が担保できる期限を賞味期限にしている」ということでした。
自治体の意見と業界の意見。はたして、どちらが本当なのでしょうか。
日本ミネラルウォーター協会「容量も販売時の品質の一つ」
日本ミネラルウォーター協会に伺いました。
専務理事の渡辺健介氏は、「容量も販売時の品質の一つ」と話します。
渡辺氏は、次のように説明してくださいました。
「通常の食品は、時間の経過とともに、酸化などにより、味や色などが変化します。したがって、大部分の食品の賞味期限の設定根拠は、味が色が期待されるレベルを下回ることのないこと、として設定されています」
「ところがミネラルウォーターは水なので、時間が経過しても酸化などの変化を受けず、日本のミネラルウォーターはヨーロッパのものほど硬度も高くないので、時間が経過してもミネラル分の析出もなく、味や色が変化することがほぼありません」
「ペット容器は、その表面から水分が蒸発していくので、ペット入りミネラルウォーター製品の場合、時間の経過とともに中味の容量が減っていきます。容量については、計量法に基づいて表示がなされており、その商品が販売される時点では、表示している量より下回ってはならない範囲が計量法により定められています。(例えば、500mlペットの場合は2%以内となっています)」
「容量も、販売時の品質のひとつと考えられることから、ミネラルウォーター製品の賞味期限設定の根拠として、容量が表示量を確保できる期限としている事業者もある、ということです」
大手メーカー2社は「計量法を考慮」
では、飲料メーカーは、具体的にどのように自社のペットボトル水の賞味期限を設定しているのでしょうか。
サントリー食品インターナショナルは、
通常の清涼飲料については、食品表示法に基づいて賞味期間を設定しております。計量法はお客様への販売時点での内容量を保証するもので、本来、賞味期間の設定にかかるものではありませんが、経時的な香味変化が少ないミネラルウォーターにおきましては、商品の流通期間や計量法を主たる要因として賞味期間を設定しております
との回答でした。
キリンビバレッジは
「賞味期限」とは、未開封の状態で、かつ容器に表示されている方法で保存した時、美味しくお飲みいただける期限だと、弊社ではお客様にお伝えしております
とのこと。
アサヒ飲料は
おいしさを含む品質が保たれている期限と、容器の耐久性を含め、内容量を担保できる期間と考えて表示しております
との回答でした。
3社のうち、2社は、表示量を確保できる期間についても賞味期限設定の際に考慮していることがわかりました。
消費者庁「販売前に計量法違反とならないよう賞味期限設定する商慣習がある」
では、食品表示を管轄する消費者庁は、この問題についてどのように考えているでしょうか。
以下のように回答をいただきました。
国の正式なコメントとしては、経産省の公式サイトに掲載されている内容(4)のとおりです。賞味期限は、食品表示法に基づく食品表示喜寿の定義に沿って科学的根拠をもって設定されるものです。一方で、長期保存が可能なミネラルウォーターは、販売前の流通・保管の段階で計量法違反とならないよう、安全係数にかなりのバッファーをもって賞味期限を設定する商慣習があると認識しております。
法律上、計量法は賞味期限の表示を義務付けておらず、賞味期限は食品表示法に基づくものである一方、ミネラルウォーターは計量法違反にならないよう、実務上は容量確保の面も考慮されている、ということです。
全国清涼飲料連合会「消費者庁のガイドラインにのっとって設定」
全国清涼飲料連合会にも聞いてみたところ
各事業者は基本的には消費者庁が発行している下記ガイドラインに則って設定されています。「別添」食品期限表示の設定のためのガイドライン」上記の様々な賞味期限の決定要素を勘案されて設定・表示されていると思われます
との回答でした。消費者庁のガイドライン(7)にはミネラルウォーターに特化した件は書かれておりません。
計量法は賞味期限表示を義務づけないが、実際は計量法を考慮し設定
以上、取材の結果をまとめると、
計量法は賞味期限表示を義務づけていないが、メーカーは計量法違反を避けるため、実際には計量法に定められた「容量確保」も考慮して賞味期限を設定している
ということになります。
結論は、
「賞味期限は食品表示法に基づくものだが、ペットボトルのミネラルウォーターに関しては、実務上は計量法に定められている容量確保も考慮して定められている」
ということです。
わたしたち消費者が理解しておくこととは
ガラス瓶に入っているミネラルウォーターには、賞味期限表示の義務がありません(6)。品質の劣化が起こりにくいからです。
国産のミネラルウォーターの多くは、製造工程で加熱殺菌などが行われていますので、品質の劣化が起こりにくく、食品表示基準においては、ガラス瓶入りのもの(紙栓を付けたものを除く)やポリエチレン容器入りのミネラルウォーターの賞味期限や保存方法は、省略できることになっています。
消費者庁も、賞味期限の切れた災害備蓄品について次のように説明しています。
飲料水は、賞味期限を超過しても一律に飲めなくなるものではありません。品質の変化が極めて少ないことから、一部のものについては期限表示(消費期限・賞味期限)の省略も可能としています。
農林水産省も消費者庁も、「賞味期限が過ぎても飲めなくなるわけではない」としています。
ペットボトル水の賞味期限が過ぎたからといって、すぐに捨てる必要はないのです。
国連大学の最新報告書「地球規模の水破産の時代」と警告
国連大学の新たな報告書は、地球規模の水「破産」の時代に入ったと警告しています(8)。経済損失は年間3070億ドル(約49兆円)に相当するとのこと。
長期間、水を過剰に利用してきたこと、気候変動、汚染などの影響によって、水システムが回復できない状況になっています。過剰な利用によって地下水が枯渇し、「水危機」が深刻になっているのです。
このような折に、人間が決めた「賞味期限」で、貴重な水を無駄にすることがあっていいのでしょうか。
環境問題に対し多くの提言をおこなってきたレスター・ブラウン氏は、「食料生産には飲み水の500倍の水が使われる」と述べています(9)。我々は、水を飲まなければ命をつなぐことができません。飲み水としての水が必要なだけでなく、食料をつくるためにも膨大な量の水が必要なのです。
毎年のように、世界じゅうで自然災害が起きています。
備蓄として使われることの多いペットボトル入りミネラルウォーターの「賞味期限」について、飲めなくなる期限ではない、ということをしっかりと理解し、自分や家族、職場、地域、自治体などにも広く知っていただく必要があります。
賞味期限を過ぎても、容量が減っていたとしても品質的には問題ない場合が多いので、それを理解して、貴重な資源を大切にするようにしましょう。
参考情報
今日の書籍
仕事も家族もすべてを失った経験を持つ著者が、沖縄で開催していた講義の内容をまとめた一冊です。
食品ロス関連の仕事について考えさせれらたのは、p56-57にかけて書かれていた、以下の趣旨の記述です。
道にバナナの皮が捨てられている。誰かが踏んですべって転ぶ前にその皮を拾う人は重要な貢献をしていますが、組織ではほとんど評価されません。でも、バナナの皮で転んですべった人を助けて救急措置をほどこすと「ヒーロー」になります。本来、救護活動より、未然に事故を防ぐほうが価値があります。もっとも効率のいい問題解決は、問題が生じる前に原因を断つこと。なのに、なぜかバナナの皮で転んですべった人を助ける行為ばかりが注目され、評価される・・・・
食品ロス問題も、同じ傾向があると感じました。食品ロスを未然に防ぐことこそ、もっともコストと資源の無駄を防ぐ活動なのに、出たロスを再利用したりリサイクルしたりすることばかりに注目が集まり、賞賛されます。リデュースは評価されない傾向があり、リユースとリサイクルのみが評価され賞賛されます。マスメディアの取材も後者2つに偏っています。リユースとリサイクルが悪いのではなく、「リデュース」こそ3Rの最優先だ、ということを認識する必要があると思うのです。
分厚い本ですが、読みやすく、強く勧めている人もいらっしゃる一冊です。以下が出版社からのコメントです。
沖縄でひっそり開催されていたとある講義。経営者やジャーナリスト、学者、キーパーソンが夜な夜な通っては「愛」と「経済」について学んだという伝説の講義がついに一冊に。「愛」を軸に、生きることや経済、社会の仕組みを問い直す衝撃作
今日の映画
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
出演:ティルダ・スウィントン、マイケル・シャノン、ジョージ・マッケイ、モーゼス・イングラムほか
環境破壊で地表に人が住めなくなって25年。裕福な一家──母(ティルダ・スウィントン)、父(マイケル・シャノン)と息子(ジョージ・マッケイ)──は、塩抗の奥深くにつくられた豪華なシェルターに、医者や執事など数人の知人と暮らしています。
神経質で、すべてを「完璧」に管理したい母親の意向で、一家は規則正しい生活を送っています。屋内プールでの水泳、美術品の模様替え、定期的な防災訓練、自衛のための射撃訓練、回顧録の執筆などがルーティンとなっています。
そんなユートピアにある日、地表から招かれざる客が侵入します。シェルターのおきてにしたがって、侵入者を排除しようとしますが、取り押さえることに失敗。気まずい空気のなか、一家はその黒人の少女(モーゼス・イングラム)をシェルターに迎えいれることにします。
美術品にかこまれた白人家庭に黒人少女の存在は強烈な異物感を漂わせます。シェルターには「一線を越えない」という暗黙の了解がありますが、外から来た少女にはわかりません。
シェルターのように閉じた空間で生きていくには「他人の心を乱さないこと」が重んじられるのです。自分のつらい思い出話をしたり、他人の過去を詮索したりすることは、いたずらに心を刺激してシェルター内に不協和音を生じさせることになります。
エネルギー業界の資産家である父親には環境破壊に関わった罪悪感があります。そしてシェルターで生まれ育った息子をのぞくみんなは、シェルターに入る前に「誰を救い、誰を見捨てるのか」という生命の選択をおこなった罪悪感を抱えています。
そのためみんなは息子に改ざんされた過去を語ってきました。息子が執筆している父親の回顧録ですら、父親の心をなぐさめるべく脚色されています。
映画の見どころのひとつは、強烈な異物感を漂わせていた少女が、シェルターの「気品」や「色」に調和していく様です。はたして彼女はシェルターになじめるのでしょうか──。
他人の顔色をうかがい、話し合いを避け、忖度しあう日本社会。シェルターに入っているわけでもないのに、わたしたち日本人はなぜそんな窮屈な社会を生きているのか考えさせられる映画です。
編集後記
国連食糧農業機関(FAO)は、一人当たりの水資源量が10年で7%減ったと報告しています。
日本は、水資源が潤沢に思われていますが、実は一人当たりの資源量で見てみると、世界の中で決して多くはありません。
食品ロスは「水ロス」でもあります。飲み水の500倍の水が使われる食料生産、食べないことがわかっていながら生産・販売するのは資源とコストの無駄でしかありません。水を大切にしましょう。
1月31日(土)午後の東京・府中での基調講演・書籍販売も、お申し込みお待ちしておりますね。
2026年1月23日
井出留美
・サステナビリティ情報も配信中
・過去の記事も読み放題
・毎週届き、いつでも配信停止可能
・読みやすいデザイン
すでに登録済みの方は こちら
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績