ヴィーガン食品だから健康に良いとは限らない ~ 含有成分の調査 パル通信(23)

英国のロビー団体「Action on Salt」が、代替肉の塩分含有量を調査したところ、対象製品のうち75%は政府の推奨量を達成していないことがわかったと報じられました。ヴィーガン製品=栄養バランスに優れている、というわけではないということです。
井出留美 2021.11.30
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ヴィーガンに好まれている食品は健康に良い、動物性より植物性の食品の方がよい、といった印象は、皆さんの中にもあるのではないでしょうか。ヴィーガンやダイエッターに好まれているのが「代替肉」と呼ばれる食品で、大豆ミートなどがその代表例です。


英国のロビー団体「Action on Salt」が、代替肉の塩分含有量を調査したところ、対象製品のうち75%は政府の推奨量(6g/日)を達成していないことがわかったと報じられました。ヴィーガン製品=栄養バランスに優れている、というわけではないということです。今日はこの話題について見ていきます。

  • 英・代替肉207製品の75%は塩分が推奨値を超えている

  • 米・代替肉は消化可能なアミノ酸量が少ない

  • 日本の塩分推奨量と代替肉の現在

1. 英・代替肉207製品の75%は塩分が推奨値を超えている

今月、複数のメディアが、英国のロビー団体「Action on Salt」の調査結果を報じました。207種類の植物性肉製品を、226種類の通常の肉製品と比較して分析したところ、6つの製品カテゴリーのうち5つにおいて、植物性肉の塩分含有量が統計的に有意に高い結果になったというのです。この結果はNutrients誌にも掲載されました。

ただ、これは今回初めてわかったことではないそうです。英ロンドンのクリーン・メアリー大学の公衆衛生栄養学研究者のアレッサンドリーニ氏は、「2018年にもAction on Saltが同様の調査を実施し、同じような結果を出した」と話しています。

今回の調査では、207種類の製品のうち、塩分量が低い商品は、たった2種類しかありませんでした。

なお、この「代替肉の塩分含有量が高い」ということは、TBS 「アシタノカレッジ」に「エシカルはおいしい!!」の市村敏伸さんが出演された回で知りました。市村さんもこのニュースレターを読んでくださっています(ありがとうございます!)

市村さんが出演されている部分のリンクを貼っておきます。

2.米・代替肉は消化性必須アミノ酸が少ない

また、含有成分というのは、その成分の含有量だけでなく「消化・吸収のしやすさ」も考慮に入れる必要があります。

米国の研究で、インポッシブルやビヨンドミートなど、代替肉で知られるスタートアップのハンバーガーは、豚肉や牛肉に比べて、消化可能なアミノ酸(消化性必須アミノ酸)の含有量が少ない、というものもあります。

インポッシブルやビヨンドミートの栄養表示では、タンパク質を、一般的な値(g)で表示しているため、誤解を招く恐れがあるとしています。調査結果は国連食糧農業機関(FAO)の消化性必須アミノ酸スコア(DIAAS:ディアス)と照合されました。

イリノイ大学動物科学部・栄養科学部の教授でEuropean Journal of Nutrition誌の共同執筆者であるハンス・スタイン氏は、「特に子どもやティーンエイジャー、授乳中の女性や高齢者は、アミノ酸を十分に摂取することができないリスクがあります」と述べた上、「今回の実験結果は、これまでのデータと合わせて、これらの人々に十分な量の消化可能な必須アミノ酸(消化性必須アミノ酸)を供給するために、動物性タンパク質を食生活に取り入れることの重要性を示しています」と強調しています。

3. 日本の塩分推奨値と代替肉の現在

それでは、日本の塩分推奨値や代替肉の現在についてみていきましょう。

まず、日本は、塩分摂取量を何グラムと定めているのでしょうか。

厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)のp14を見ると、年齢別・性別で表になっています。これを見ると、成人男性で1日7.5g未満、成人女性で1日6.5g未満です。

厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)

厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)

日本は、諸外国と比べると、塩分摂取量が高めです。味噌と醤油をベースにした食文化なので、どうしても高くなりがちなのです。韓国にも同様の傾向があります。

では、日本の代替肉の塩分量はどれほどなのでしょう。

たとえば、大豆ミートを使ったハンバーガーを製造、販売しているモスバーガーの公式サイトによれば、最も食塩の含有量が低いのはソイハンバーガーで1.65g、最も高いのはソイスパイシーモスチーズバーガーで2.8g。女性の場合だと1日に必要な塩分の3分の1量をソイスパイシーモスチーズバーガー1個で摂取できることになります。

なお、モスバーガーのサイトでの表示はナトリウム量ですが、下記の式で食塩量に概算できます。

食塩量(g)=ナトリウム量(mg)×2.54 / 1000

ただ、通常のバーガーの塩分量を見てみると、スパイシーダブルモスチーズバーガーで食塩量3.85g(ナトリウム1,516mg)ありますから、特別に大豆ミートが高いというわけではなさそうです。

大豆ミート全般の栄養価を調べたサイトだと、ナトリウム3mg/100gと書いてあるものもありました。

日本では、英国ほど代替肉製品が普及しているとはいえないので、英国の結果をそのままあてはめることはできないものの、ヴィーガン製品=ヘルシー、とは限らないという結果は頭の隅に入れておく必要がありそうです。

通常の肉に比べると、大豆ミートは、味の物足りなさを感じる場合があり、塩分・脂質を足すことで、その味の物足りなさが補われるので、製品としては塩分量が高くなる傾向があるのだと思います。

今回ご紹介した調査から言えることは、「植物性 VS 動物性」「ヴィーガン食品 VS 普通の食品」といった、単純な二項対立で健康への良し悪しを決めつけてはいけない、ということです。

今日の映画

ハンバーガーだけを1ヶ月食べ続けるドキュメンタリー映画「スーパーサイズミー」はよく知られていますね。その第二弾、「スーパーサイズ・ミー2:ホーリーチキン!」というドキュメンタリー映画も壮絶です。はたしてここまで大量に動物を育てる必要があるのか?大量生産の負の側面や、動物を殺して食べることの意味を問われます。

今日の書籍

石川伸一先生監修の書籍『「食」の未来で何が起きているのか 「フードテック」のすごい世界』(青春新書)には、今回とりあげた代替肉の話題が取り上げられていますので、ぜひご覧ください。

編集後記

11月30日15時より、Jミルク主催のウェビナーが開催されます。こちらでモデレーターを務めます。

今回の記事で、何か参考になるものがありましたら、ツイッターやフェイスブックなどのSNSでシェアしていただけると、これから書き続けていく励みになります。ぜひお待ちしております。

***

それでは、次回をお楽しみに!

2021年11月30日

井出留美

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