長崎県の食品ロス活用で食品産業もったいない大賞大臣賞受賞!/長崎のうまいもの パル通信(168)

ニュースレター「パル通信」168号では、長崎県の高校生が食品ロスの活用と削減に取り組み、顕彰制度で全国最優秀賞を受賞した概要と、長崎県内の「うまいもの」をご紹介します。
井出留美 2024.03.14
誰でも

こんにちは。パル通信にご登録いただき、食品ロス削減やサステイナビリティの活動を支援していただき、ありがとうございます。

ニュースレター「パル通信」168号では、長崎県で食品ロスの活用と削減に取り組み、食品産業もったいない大賞で最優秀賞にあたる農林水産大臣賞を受賞した取り組みの概要をご紹介します。また3月2日と3日に大阪で講演した後、長崎大学主催のシンポジウムで講演し、3月14日まで滞在した長崎県の諫早市、対馬市、大村市の「うまいもの」もご紹介します。

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長崎大学情報データ科学部主催「情報データ科学による食品ロス問題への貢献」で講演

2024年3月5日、長崎大学情報データ科学部主催のシンポジウム「情報データ科学による食品ロス問題への貢献」が長崎駅すぐの出島メッセで開催され、基調講演しました。ITを活用して食品ロスを削減する複数の事例をご紹介しました。

NHK長崎文化放送で何度か放映され、動画も観られるようになっています。

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第11回食品産業もったいない大賞で、大企業をおしのけ、農林水産大臣賞を受賞したのが長崎の高校生でした。今回、長崎県諫早市に行き、先生と生徒たちにプレゼンテーションしてもらいました。彼らは長崎県対馬市にも何度も足を運んでおり、その対馬の取り組みについても取材してきました。

「食品ロスや生ごみで堆肥づくり」長崎県立諫早農業高等学校 

第11回食品産業もったいない大賞で全国の最優秀賞に相当する農林水産大臣賞を受賞したのは、長崎県立諫早農業高等学校生物工学部のチームでした(1)。

農林水産大臣賞を受賞した長崎県立諫早農業高等学校のチーム(長崎県諫早市にて、筆者撮影)

農林水産大臣賞を受賞した長崎県立諫早農業高等学校のチーム(長崎県諫早市にて、筆者撮影)

2024年2月13日に東京で受賞者のプレゼンテーションがありました。私はこの日、食とITの講演収録で出かけていたので、今回、初めて彼らの話を聴きました。

長崎県の離島の一つである対馬(つしま)で、220世帯の家庭から集めた生ごみを活用し、堆肥を作り、さらにその堆肥を30%混ぜたエコフィードを作り、ニワトリのエサとしても活用するというものです。

ハクサイやブロッコリー、ジャガイモ、ダイコンを育てた結果、一般堆肥と同等の効果が確認できました。以前に比べて肥料は高騰しており、生ごみを活用して無償提供される肥料「堆ひっこ(たいひっこ)」 の有用性が認められました。

この日のためにわざわざ持ってきてくれた「堆ひっこ」。袋を開けて中を見せてくれた(筆者撮影)

この日のためにわざわざ持ってきてくれた「堆ひっこ」。袋を開けて中を見せてくれた(筆者撮影)

さらにこの「堆ひっこ」を30%添加したエコフィードは、ニワトリの飼料としても活用できることがわかりました。ニワトリの嗜好性にも配慮し、添加量 30%であれば、採餌量や排卵率、卵重、ニワトリの体重や卵の食味にも問題ないことが確認されました。「堆ひっこ」はタンパク質が豊富なので、一般飼料で育てたニワトリの卵と比較しても、卵の質に優れていたそうです。これは「ハウユニット」という指標で計測しました。濃厚卵白の厚みと卵重から算出する指標です。

堆肥や飼料として活用した結果、食品ロス1トンにつき、二酸化炭素を2トン以上減らすことができたという結果を算出しました。長崎県対馬市ではおよそ2,660トンの食品ロスを排出しており、これにより約5,300トンの二酸化炭素を排出していると、高校生チームは推計しました(3)。

第11回食品産業もったいない大賞 事例発表会資料(3)

第11回食品産業もったいない大賞 事例発表会資料(3)

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長崎県対馬市の生ごみ堆肥化

では、対馬市ではどのように堆肥化をおこなっているのでしょうか。対馬市役所にも伺ってみました。

長崎県対馬市役所(筆者撮影)

長崎県対馬市役所(筆者撮影)

対馬島は、長崎空港から飛行機で35分の距離にあります。韓国の釜山が近く、コロナが落ち着いた今は韓国からの観光客が多く訪問しています。

対馬市の世帯数は、2024年2月現在で14,623世帯(4)。その全世帯数のうち、15%にあたる2,200世帯が、生ごみの分別回収に協力してくれています。生ごみ回収に使うのは、9リットルの白いバケツ。

生ごみ回収に使っている9リットルのバケツ。福岡県大木町で使っているものと似ている(筆者撮影)

生ごみ回収に使っている9リットルのバケツ。福岡県大木町で使っているものと似ている(筆者撮影)

家庭からだけでなく、事業者からも生ごみを回収しています。主に飲食店や給食センター、幼稚園など、60事業者から回収しています。

対馬島は、沖縄・北方領土を除くと、日本で3番目に大きな島です(一番大きな島は佐渡島、2番目は奄美大島)。九州の市区町村の中では、大分県佐伯市、 宮崎県延岡市に次いで 3 番目に面積の広い自治体で、696平方メートルあります(5)。今回、6日間滞在し、北から南まで廻りましたが、とにかく広い。その広い自治体を、5台の軽トラックですべて廻っているそうです。頻度は週2回。対象者によって火・金もしくは月・木のパターンで回収していますので、自治体は、水土日をのぞく月・火・木・金に対馬市内を廻ることになります。

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いつから生ごみ回収を始めているの?

対馬市は、2012年(平成24年)から、この堆肥化事業を始めています。

今回、堆肥化施設を訪問しました。その施設は2014年(平成26年)に完成したとのこと。

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生ごみ分別回収のメリットは?

対馬市役所の市民生活環境課の龍井様に伺ったところ、次の3つを挙げていました(6)。

1、分別により、ごみ処理経費が削減できる

2、地元農業を活性化できる(完成した堆肥は無償提供)

3、二酸化炭素排出量を削減できる

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さらなる効率化を目指し、生ごみ回収実証実験

対馬市では、生ごみ回収のさらなる拡大と、回収の効率化を目指し、生ごみ回収の実証実験をおこないました(7)。実施期間は2023年10月31日から2024年1月19日まで。現在の白いバケツは、使ったあとに戻さないといけないので手間がかかること、また申し込みをしないとできないので、1)容器の戻し不要 2)申し込み不要 というように簡便化しました。対象地域は厳原(いづはら)町の白子区と久田道地区。その結果、特に久田道地区では生ごみ回収量が2倍に増えました。

対馬市役所資料より(7)

対馬市役所資料より(7)

対馬市では、このほかにも住民へのアンケート調査を実施しており(8)、より効率的な方法で生ごみ事業を発展させていく予定です。

参考資料

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長崎県のおすすめ飲食店(諫早市・対馬市・大村市)

今回、講演や取材で長崎県に12日間滞在する中で、いくつもの飲食店に通いました。その中から、お料理がおいしかった店を、3つの自治体につき、1つずつご紹介します。

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長崎大学の先生にご紹介していただいたお店です。ご一緒した翌日、先生は用事で博多へ行かれたのですが、私は一人でまた行きました。

諫早市のおおば寿司(筆者撮影)

諫早市のおおば寿司(筆者撮影)

ご家族経営のお店はいつ行ってもあたたかく元気に迎えてくれます。長崎での講演の様子がNHKで放映され、店のテレビに映ったときも、みんなで観てくださいました。JR諫早駅から徒歩5分ぐらいの距離です。お酒2杯、寿司5カン、枝豆や砂肝炒めなどを頼んで4,000円ぐらいでした。

長崎県諫早市のおおば寿司(筆者撮影)

長崎県諫早市のおおば寿司(筆者撮影)

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地球の歩き方が出版しているガイドブックには載っていないのですが、隠れ家的な存在です。韓国の方も多く訪問していました。特に魚の煮付けが絶品でした。長崎県庁の公式サイトには載っています(この記事の店名をクリックするとサイトにつながります)。一人3,000円以下でした。

長崎県対馬市 六角堂(筆者撮影)

長崎県対馬市 六角堂(筆者撮影)

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大村市にはミライonという図書館があり、筆者の友人も「この近くに住んでいたときは週3回通っていた」というくらい素晴らしい施設です。この図書館の近くにあるのが、酒とめし 燈(ともしび)。どの料理も味がよく、新鮮な驚きがありました。たとえば「牛すじのポン酢」。牛すじといえば、おでんに入っている、あまり彩りのよくないものを想像しました。が、こちらで食べたものは、まるでコンビーフをやわらかめにしたような食感で、彩りも美しく、びっくりしました。お酒を2杯ずつ飲んで、刺身の盛り合わせや肉じゃが、冷やしピーマンなどを頼んで、一人3,000円台くらい。

長崎県大村市 酒とめし 燈(ともしび)(筆者撮影)

長崎県大村市 酒とめし 燈(ともしび)(筆者撮影)

大村市は長崎空港がある市です。今回、議会中でお忙しかった市長にもお会いする時間をいただきました。本屋さんはカフェとレコード店が併設され、本に愛情を注いでいる様子がうかがえました。またスーパーもおいしそうで珍しい食材がいくつもあり、魅力的で、よい街でした。おすすめです。

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今日の書籍

海の砂漠化現象の原因のひとつが「磯焼け」。ウニが海藻を食べ尽くしてしまうことが要因です。そこで、この「磯焼け」を防ぐため、長崎県の海でウニの駆除や、海を守るための活動を続けているプロダイバー、中村拓朗さんの著書です。今来ている長崎県大村市の書店で見つけました。著者の中村さんは大村市出身だそうで、「長崎県にゆかりのある著者」の本コーナーに置いてありました。

海藻の代わりに、ウニに規格外のキャベツを食べさせることで、ウニの品質が良くなり、磯焼けも防ぐことができる。この取り組みは何年も前から報道されてきました。神奈川県の公式サイトにも「キャベツウニ」として紹介されています。キャベツだけを与えて育ったムラサキウニは、甘みが強く、苦みがほとんどなくなるそうです。著者の中村さんも、ウニにキャベツを食べさせようと試行錯誤するのですが、スーパーにキャベツの葉っぱをもらいに行っては不審そうな目で見られたり、キャベツが足りなくてスーパーを駆け回る話など、臨場感にあふれて面白かったです。

この本を売っていたclips on(クリップスオン)というお店は、いま流行りの本だけでなく、地元密着の本や書店員さん推しの本などが置かれていて、おすすめです。

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今日の映画

監督:ヨルゴス・ランティモス

主演:エマ・ストーン

アカデミー賞11部門ノミネート、4部門で受賞した映画です。主演のエマ・ストーンはこの映画で二度目のアカデミー賞主演女優賞を受賞しました。命を失った若い女性ベラ(エマ・ストーン)。天才外科医により、その命がよみがえります。そしてある男性と知り合い、大陸横断し、今まで知り得なかった世界を知ることで、先入観や偏見、固定観念から解き放たれ、女性として自立していく・・・という物語です。なかなかインパクトある映像。私はそんなに好きではなかったのですが、衣装デザインや美術、メイクアップ&ヘアスタイリングの部門でアカデミー賞を受賞しただけあって、ファッションやアート、デザイン関係の方がすごく好きみたいです。以前、パル通信にも寄稿してくださった黒部エリさんがnoteに映画評を書いています。関心のある方はこちらもお読みください。

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編集後記

前回、3月初旬の大阪講演に来てくださったパル通信サポートメンバーのみなさま、ありがとうございました!あのあと長崎県に12日間滞在しました(まだ長崎にいます)。冒頭に書きました通り、長崎大学主催のシンポジウムは、おかげさまで無事終了しました。NHK長崎文化放送で放映され、動画も公式サイトに載っています。

2024年3月17日、外務省主催の食品ロス削減シンポジウムで登壇します。YouTubeやインスタグラムのライブ配信で観られるようです。

また、2024年3月21日、食生活ジャーナリストの会主催、第一回ジャーナリスト活動報告会でも発表します。申し込みすればどなたでも観られるそうなので、ぜひこちらもどうぞ。

2024年3月14日

井出留美

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