日本企業2社含む世界12社を米シンクタンクがアップサイクル企業として紹介 パル通信(174)
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ニュースレター「パル通信」では、米国のシンクタンクがピックアップしたアップサイクル企業12社をご紹介します。ピックアップされた12社に含まれた日本企業とはどの会社でしょうか。
米国環境保護庁(EPA)が2023年10月に発表した報告書(1)によると、食品をアップサイクルすることは、食品ロスを減らす上で最も環境に負荷をかけない3つの方法のうちの1つ、だそうです。
では、「アップサイクル」とは何でしょうか。アップサイクルとは、本来、捨てられる運命にあったものに手を加えて、新たな価値を生み出したものです。水産庁の会議では、「アップサイクル」のことを「創造的再利用」という言葉で説明していました。
アップサイクル食品協会(2)によれば、アップサイクル食品は、誰でも簡単に食品の廃棄を防ぐことができ、余った食品から新しい高品質の製品を作り出すことで、食品ロスを防止し、減らすことができます。
米国のシンクタンク、Food Tank(フードタンク)(3)は、2013年に、食料システムを改革するために設立されました。このフードタンクがアップサイクル企業として12社を紹介しています。そのうち、2社が日本企業です。では見ていきましょう。
1. アイオ(ÄIO)(エストニア)
ÄIO(4)は、食品産業や農業、木材産業から出るロスを利用して、食品や化粧品用の脂質の代替品をつくっています。これらはバターやオイル、栄養酵母などに代わる持続可能な製品です。EPA(米国環境保護庁)の試算によると、乗用車34,000台分のCO2排出量を減らしたことに値するそうです。特にパーム油は、世界で最も取引されている植物油ですが、昨今では森林伐採や環境負荷の大きさが指摘されています。
アイオの公式サイトより。ココナッツオイルや動物性脂肪、ショートニングの代替品として使える脂質
2. ベイク・ミー・ヘルシー(Bake Me Healthy)(米国)
ベイク・ミー・ヘルシー(5)を立ち上げた女性、キンバーレ・ラウ(Kimberle Lau)さんは、妊娠中、乳糖と卵の不耐症になり、2020年には乳がんのリスクが高くなったため、大豆を食べられなくなってしまいました。また、自分の子どもたちには健康的で栄養価のある食べ物を与えたいと考え、植物性由来の食材を使ってケーキを作り始めました。「ベイク・ミー・ヘルシー・ミックス」は、9つのアレルゲンを含んでおらず、食料品店では売ることのできない果物や野菜などを使っているケーキミックスです。
ベイク・ミー・ヘルシーの公式サイトより、販売されている製品
3. バーナナ(Barnana)(米国)
バーナナ社(6)は、バナナの加工食品を製造・販売しています。バーナナ社の共同創業者であるマット・クリフォード(Matt Clifford)氏は、「毎年1,500億本のバナナが輸出用として生産されるが、そのうちの半分にあたる750億本が廃棄されている」と語っています(下記動画)(7)。
バーナナ社は、ラテンアメリカの先住民が経営する再生農園と提携し、市場から回収した、熟し過ぎたバナナやオオバコ(Plantains)を調達しています。そしてバナナチップスや一口サイズのスナックなどを作っています。
バーナナ社が販売している製品(バーナナ社公式サイトより)
4. カスカラ・フーズ(Cascara Foods)(チリ)
カスカラ・フーズ(8)は、果物の果肉や皮、茎などを回収し、栄養補助食品や植物性プロテインパウダー、バーやパンケーキミックスに加工しています。
カスカラ・フーズの公式サイトより
5. クラスト(Crust)(日本)
クラスト社(9)は、余ったパンやそのほかの食材をビールに、余った果物の皮をノンアルコール・フルーツジュースにアップサイクルしています。シンガポールと日本で事業を展開し、レストランやホテルと提携して食品ロスを削減しています。パートナー企業と共にブランド製品を生産し、パートナー企業にインセンティブを提供しています。
クラスト社公式サイトより
6. グリーンボウル(Green Bowl)(米国)
食品の研究に携わる2人の科学者が、栄養価の高い食品が食品ロスとして大量に捨てられていることにショックを受け、グリーンボウル(Green Bowl)を設立しました(10)。ジュース工場から出てくるニンジンやホウレンソウ、果物のかす、植物性ミルクの工場から出る穀物の残渣、キヌア、ビール醸造で使われた大麦など、新鮮な食材とアップサイクルされた食材を混ぜて、保存料を使わない植物性食品を製造しています。製造工程やパッケージに関しても、廃棄物や温室効果ガスの排出量を最小限に抑えようと努力を続けています。
グリーンボウルの公式サイトより、製品群
7. アイ・アム・グラウンデッド(I Am Grounded)(オーストラリア)
世界の何百万人以上がコーヒーを愛飲しています。世界のコーヒー産業は、コーヒーを作るために年間100億kgのコーヒー果実を廃棄しているそうです。Journal of Food Science and Technology誌に掲載された研究(11)によると、コーヒーが収穫されてから消費されるまで、植物のバイオマスの95%以上がロスになっています。コーヒーの種子には需要があっても、コーヒーの果実や他の部分には需要がないためです。そこでアイ・アム・グラウンデッド(12)は、2019年以降、コーヒーの果実をエナジーバーに変え、1万5000kg(15トン。アフリカゾウ約2.5頭分)以上のロスを削減してきました。アイアムグラウンデッドは、労働者と協力し、コーヒーの副産物を商品化しています。
アイ・アム・グラウンデッドの公式サイトより
8. マトリアーク・フーズ(Matriark Foods)(米国)
マトリアーク・フーズ社(13)は、農場で余った野菜やカット野菜の残りを無駄にせず、パスタソースや野菜スープのような、減塩の野菜加工品にアップサイクルしています。同社製品の濃縮野菜ブロス、1ガロン(約3.8リットル)あたり、0.9ポンド(約0.9kg)の廃棄を削減し、2.23ポンド(約1kg)の温室効果ガスを削減し、102ガロン(約386リットル)の水を節約することができます。これら製品は、民間のレストランや学校、病院、大規模施設で活用されています。
マトリアーク・フーズ社のCEOアンナ・ハモンド(Anna Hammond)氏は、アップサイクル食品を作ることで、「食料システムがより良い方向に変化し、プラスの影響によって、より健康的な世界をつくることができる」と語っています。
マトリアーク・フーズ社公式サイトより
9. オイシックス(Oisix)(日本)
オイシックス・ラ・大地(14)は、高品質のオーガニック製品や添加物不使用の製品を消費者に販売しています。2つのラインナップ「アップサイクルバイオイシックス(Upcycle by Oisix)」と「らでぃっしゅぼーや」を揃えています。たとえば「アップサイクルバイオイシックス」は、穴が空いてしまい流通できないワカメを使った玄米スナックや、梅酒に使われた梅のドライフルーツ、コーヒーカスから作った黒糖あられやチョコあられ、りんごの芯やパイナップルの芯を使ったチップス、パンクしてしまった焼き芋を使ったニョッキやパンなどです。らでぃっしゅぼーや(15)は、規格外の野菜や果物などを詰め合わせにして販売しています。
10. プラネタリアンズ (Planetarians)(米国)
プラネタリアンズ(16)は、2013年の設立以来、アップサイクルされた食材から栄養価の高い食品を作ってきました。現在は、使用済みの酵母と使用済みの大豆を使って、ビーガンのための肉製品を製造しています。牛肉より安価で鶏肉程度のリーズナブルさの肉です。製造までの温室効果ガス排出量は牛肉の120分の1と、牛肉に比べて非常に少ないです。
プラネタリアンズの公式サイトより
11. プラック(Pluck)(カナダ)
カナダのトロントを拠点としている紅茶の販売会社が、2012年にジェニファー・コミンス氏によって設立されたプラック(Pluck)です(17)。最高の紅茶は「少量生産」だと、公式サイトで謳っています。果物の皮やカカオの殻など、地元の製造工程で出る廃棄物を活用してさまざまな種類の紅茶を作っています。パッケージもゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)を目指し、輸送工程でも温室効果ガスの排出を削減するため、地元産の原料にこだわり、小ロットの生産も採用しています。プラックは、第三者認証であり、紅茶の最高認証であるGFSI / SQF認証を取得しています。
プラック公式サイトより
12. ルートリー(Rootly)(デンマーク)
ルートリー(18)は、余っている野菜(ビーツ、ニンジン、マッシュルームなど)や、ジュース製造の際に出る余剰の搾りかすなどを使って、植物性の肉製品や、規格外ニンジンで作ったスナックなどを製造しています。下の写真にあるものは、クミンやガーリック、コリアンダーなどが使われていて本格的な風味です。ピタパンにはさんで食べたり、ミントヨーグルトやパンに加えて楽しめます。
ルートリー公式サイトより
以上、12社とその主要製品をご紹介しました(19)。さまざまな国でアップサイクルがおこなわれていることがわかりますね。日本のオイシックス・ラ・大地の製品も、身近なものが活用されていて「食べてみたい」と思わせるものでした。日本の2社についてはオンラインで購入できますので、関心のある方は試してみてくださいね。
参考資料
4)ÄIO
6)Barnana
9)CRUST
10)Green Bowl
11)The wastes of coffee bean processing for utilization in food: a review(Journal of Food Science and Technology)
12)I Am Grounded
14)Oisix
15)らでぃっしゅぼーや
16)Planetarians
17)PLUCK
18)Rootly
今日の書籍
がんに罹患し、ステージ4の宣告を受けた森永卓郎さんが、死を前にして「遺書」として書いた書籍です。森永さんがメディアに出る中で存在した3つの「タブー」(1)ジャニーズの性加害(2)財務省のカルト的財政緊縮主義(3)日本航空123便の墜落事件 について詳しく書いた本です。日航機墜落事故は私も関心があって元JAL社員の本を読んでいました(元社員の方は、退職後、大学院の博士後期課程でこの事件について博士論文を執筆されています)。もう命がない、となったら、自分だったら何を書き残すだろうか・・・ということを考えさせられました。また、日航機墜落事故が、日米の理不尽な関係に深く関与する要因になったという分析は驚きを持って読みました。私はインターネット通販で書籍を購入する場合、「e-hon」で啓林堂書店奈良店を登録し、啓林堂に売上がいくようにして購入するようにしています。「e-hon」でも、この本は一番の売上になっていました。
今日の映画
監督:テイト・テイラー
出演:エマ・ストーン、ビオラ・デイビス、オクタビア・スペンサーほか
1960年代の米国で、白人女性によって差別される黒人家政婦たちが、あることを機にその関係性に変化が生じていく・・・・といったストーリーです。ベストセラー小説が映画化されたもの。エマ・ストーン演じるスキーターが、黒人のメイドたちの環境に疑問を抱き、インタビューを試みます。それが、やがて大きなうねりとなって・・・・ 映画の最後の方で"Go find yourself"というセリフが出てくるのですが、これが印象深く、以前、映画を鑑賞した際、手帳に書き留めていました。字幕翻訳家は「自分の道を切り開きなさい」という意味合いを書いていたと思います。第84回アカデミー賞で、黒人メイドの一人を演じた女優オクタビア・スペンサーが助演女優賞を受賞しました。黒人が非常に厳しく理不尽な差別を受けていた過去があり、過去の方たちの忍耐や努力、さまざまなことを経て今がある・・・・ということを実感する映画です。NASAで黒人女性たちが道を切り開いてきた過去を描いている映画『ドリーム』もおすすめです。
編集後記
4月18日、リーガロイヤルホテル広島で開催される法人会の47都道府県女性部会代表が集まる会で「食品ロス」の削減に関する基調講演をおこなうため、広島に来ています。2021年、サッポロビールとファミリーマートの共同開発ビールに誤記があり、あやうく発売中止になりかけたのが救われたという経緯がありました。その「EじゃなくてもAじゃないか」の発案者、広島の企業、モルテンの前広報室長、中森真太郎さんの新オフィスを訪問することができました。
奈良蔦屋書店で5月10日(金)14-15時、拙著『あるものでまかなう生活』(日本経済新聞出版)のトークイベントをおこないます。今のところ定員の半分ぐらいが埋まったみたいですが、ひきつづき本番まで募集しています。奈良蔦屋書店の公式サイトをご覧ください。お申し込みは電話で、と書いてありますが、もし参加してくださる場合、私から蔦屋書店さんにお伝えすることもできますのでお知らせください!
2024年4月17日
井出留美
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