牛も脱炭素!畜産の環境負荷と対策の現在 パル通信(16)

酪農乳業をはじめとした畜産業の環境負荷が大きいということで、環境負荷を軽減するような動きがあります。では、私たちは牛肉の摂取をやめるべきなのでしょうか。
井出留美 2021.11.14
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2021年は、食に関する会議が多く開催されています。9月には米ニューヨークで国連食料システムサミットが開催されました。10月末から11月にかけてはCOP26、そして12月には東京栄養サミットが開催される予定です。世界的に、農畜水産業を含めた食料産業における持続可能性が議論され、地球温暖化を防止するための問題に注目が集まっています。

では、私たちは牛肉を食べるのをやめる必要があるのでしょうか。

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畜産業の環境負荷はどれほどなのか?

2021年9月8日、農研機構が令和3年度畜産環境シンポジウム ~持続可能な畜産を目指して~で発表した内容「持続可能な国内畜産への提案 小意気におしゃれに」によれば、世界の農業からの温室効果ガス排出のうち、畜産関係が約35億トンと3分の2を占めています。

下のグラフは、食品のサプライチェーンの各工程で排出される温室効果ガス(GHG)の合計量を示したものです。

棒グラフの一番上に示されているのが牛肉です。他の食品に比べて突出して高いことがわかります。特に棒グラフの茶色い部分、Farm(農場)での排出が高くなっています。

Our World in Data
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なぜ、牛の環境負荷が大きいと言われるのでしょうか。

要因の一つが、牛の胃で発生して、げっぷとして排出されるメタンです。メタンは、二酸化炭素に比べて25倍以上の温室効果があります。メタンは、食品廃棄物を埋め立てた時にも発生します。

世界中の牛から排出されるメタンの量は、年間20億トン。温室効果ガス排出量のうち、4%を占め、1つの国全体の排出量と同じくらい大きいのです(2021年5月25日、NHKニュースで報道)。ビル・ゲイツは「牛から排出される温室効果ガスの量を、仮に国にたとえると、世界第三位の温室効果ガスの排出国」だと話しています。

飛行機から排出される温室効果ガスは、世界全体の排出量のうち、1〜2%です。

つまり、牛からの温室効果ガス量は、飛行機による温室効果ガス排出量の2倍もあるわけです。

アニマルライツセンターは、すでに16年前の2005年、畜産業とメタンの記事を配信しています。過去250年間で、メタンの濃度は150%も増加した、というものです。

世界では、肉を食べることを控える「ミートフリーマンデー」(月曜日だけは肉を食べない)といった運動が広がっています。ミートフリーマンデーは、元ビートルズのポール・マッカートニーとその娘さんが始めました。日本でも、ミートフリーマンデーオールジャパンの公式サイトが立ち上がっています。

では、われわれは牛肉を食べるのをやめる必要があるのでしょうか?

世界中の人々が肉食をやめるとどうなるか?

2020年11月6日に出版された、世界的権威のある学術誌『サイエンス(Science)』に掲載された論文は、米国のミネソタ大学と、イギリスのオックスフォード大学の研究者が行った新たな研究によるものです。

世界の食料システムが現在の成長軌道を維持した場合、今後80年間で1.4兆トン近くの温室効果ガスが発生し、国連パリ協定が目標としている気温上昇レベル(1.5℃〜2℃)を妨げる可能性が指摘されました。

この論文で、研究者は、「世界の全員が肉食を止める必要はない」としています。詳しくは前掲の記事に書きましたが、もはや、一つの方策だけでは地球温暖化を防止することはできず、複数の対策を組み合わせて行う必要があるのです。

研究者らは、その方策の一つとして植物性食品を中心にした食生活を挙げており、世界中が植物性食品を中心とした食生活に転換した場合のシミュレーションも行っています。もしそれを行えば、何もしなかった時に排出される時の温室効果ガスに比べて6,500億トンが削減されるとしています。ただ、この削減量だけでは、気温上昇を1.5度に抑えるには十分ではありません。世界中の全員が肉食をやめて植物性食品に切り替えるだけでは不足なのです。

この論文は、『サイエンス』誌の公式サイト上からUS30ドル(約3,125円)で販売されているものなので、論文にあるシミュレーションのデータを直接添付することは控えますが、いくつもの方策を複合的に行わないと気温上昇を抑制することはできない状況になっています。具体的には肉食の回数を減らす、食品ロスを減らす、農薬の使用量を減らす・・・・といった具合です。

牛の排出するメタンの削減も進む

2021年4月、時事通信社は「農林水産省は、牛のげっぷに含まれるメタンガスなど温室効果ガス排出削減の研究を加速させる」と報じています。国の研究機関である農研機構では、メタンの排出が少ない牛の研究を進めています。牛の胃の中にいる細菌には、いろんなタイプがあり、その細菌の違いによってメタンの排出量が異なります。だから、メタン排出が少ない牛が持っている細菌がどれなのかがわかれば、メタンの排出が少ない牛を増やすことができる、というわけです。農研機構では、牛のげっぷに含まれるメタン排出量を、2030年までに25%、2050年までに80%削減することを目標としています(農研機構主任研究員、真貝拓三氏)。

このように、日本でも海外でも、牛から排出されるメタンガスの排出量を抑えるための実験を実施し、効果を確認しています。牛の餌の中にある物質を混ぜることで排出量が抑制されるというものです。飼料に混ぜる物質としてはさまざまなものが検討されていますが、その中には海藻も含まれています。具体的にはどの海藻なのでしょうか。

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