恵方巻売れ残り 2023年はどうだったか?45店舗調査で探る パル通信(91)
2019年から毎年行ってきた、恵方巻の売れ残り調査。はたして、2023年の調査結果はどのようになったでしょうか。45店舗の調査結果を見てみます。
2023年2月3日、野村農林水産大臣が記者会見をしました。その際、毎日新聞の町野記者が恵方巻の廃棄について「農林水産省は予約販売を推奨しているが、昨年までの民間の調査だと、まだまだ廃棄が多く、特に大手コンビニで顕著」と述べています。それに対し、大臣が「(廃棄の)数字の把握は難しい」などと答えています(下記動画、2分43秒から6分38秒までの間)。
農林水産省による予約販売の呼びかけで、2023年1月の中間報告では66事業者(1)が、2023年2月2日までの間に89事業者が予約販売に応じたとのこと。
2019年から2023年まで5年間のリサイクル量の推移は
売れ残り食品などを食品事業者から受け入れてリサイクルを行っている株式会社日本フードエコロジーセンター(2)の高橋巧一社長より、3社の節分当日の受け入れ量のデータをご提供いただきました。いずれも、食品関連事業者であるA社、B社、C社という3社からの合計数量です。
日本フードエコロジーセンターへの恵方巻納入量の推移(当社のデータを基に株式会社office 3.11制作)
A社、B社、C社に分けて見てみると、次のようになります。
日本フードエコロジーセンターへの恵方巻納入量の推移(当社のデータを基に株式会社office 3.11制作)
A社、B社は、2022年より減少しているものの、C社は、むしろ増えています。日本フードエコロジーセンターに納入された恵方巻の写真を見ても、かなりの量です。海苔と酢飯と具材がバラバラになっているものもありますが、これは、恵方巻を巻くためにスタンバイしていたものの、結局は必要なくなり、リサイクルにまわってきたものです。
2023年2月、日本フードエコロジーセンターに納入された恵方巻の売れ残り(日本フードエコロジーセンター提供)
2023年2月3日夜、45店舗調査の結果
それでは、節分当日、実際の店舗ではどのようになっていたでしょうか。
2023年2月3日夜19時30分以降、2月4日になった直後の0時13分まで、大学生インターンおよび社会人ボランティアの方にもご協力いただいて、首都圏および西日本の1都4県、合計45店舗を調べました。
その結果が次の通りです。
合計の売れ残り本数: 1.464本
1店舗あたりの平均売れ残り本数:32本
完売店舗率:17%
最大手コンビニ加盟店で目立った売れ残り
特に、最大手コンビニ加盟店での売れ残りの多さが目立ちました。
下の表、5店舗のうち、22:13に調べた76本の売れ残りについては別のコンビニですが、それ以外はすべて最大手コンビニ加盟店でした。特に目立ったこの4店舗だけでも合計302本が売れ残っています。
下から2番目の店舗は、すでに日付が変わる直前で64本、一番下の店舗では2月4日に日付が変わった直後で76本も残っています。
食品業界の商慣習である「3分の1ルール」による「販売期限」は、消費期限の手前に設定されています。消費期限ギリギリまで売らず、販売期限の時点で商品棚から撤去されますから、まもなくこれらは廃棄されるでしょう。
特に夜遅い段階で売れ残りが目立った店舗(筆者および調査者のデータ)
2023年2月4日0:13、最大手コンビニでは76本が残っていた(関係者撮影)
2023年2月3日23:59 最大手コンビニ加盟店では64本残っていた(筆者撮影)
ただ、この企業の全店舗が同じように売れ残りを出していたわけではありません。私が調べた中でも、売れ残りゼロ、売り場にその痕跡すらない店舗がありました。おそらくオーナーさんの意向で、恵方巻を全面に打ち出しての販売はしていなかったもようです。企業にもよりますが、売れ残りを出すか出さないかは、オーナーさんの裁量にも大きく関わっていると考えます。
大手コンビニ3社の調査結果
大手コンビニ3社、合計32店舗の調査結果を表にまとめてみます。
セブン-イレブンの一店舗あたり平均売れ残り本数が44本と最も多く、次いでファミリーマート18本、ローソン11本と続きました。
2023年2月3日の調査結果(筆者作成)
首都圏と西日本、合計1都4県で調べたもので、n数(調査数)が少ないことはご容赦ください。どの企業も完売店舗はあったにもかかわらず、別の店舗では100本前後の売れ残りがあったため、総合的に見ると多くなってしまっています。
2023年2月に納入された恵方巻(日本フードエコロジーセンター提供)
スーパーの調査結果
スーパーも、かなりの量の恵方巻を積んでいましたが、23時前から23:50にかけて再度廻ってみると、大幅に値引きをしているので、それをカゴに入れるお客さんも目立ち、最後には売り切っている店舗が多くありました。
私は3企業の異なる店舗を見て廻りました。夕方17時ごろや夜10時ごろにはたくさん積んであったものの、積極的な値引き販売により、夜中近くには、商品棚がすっかり空になっている、もしくは数個のみ残っている状態がほとんどでした。
ただ、別の地域のスーパーでは、閉店15分前に、半額に値引きしたにもかかわらず、160本の恵方巻が残っている店舗もありました。
閉店15分前に160本の恵方巻が売れ残っていたスーパー(関係者撮影)
岡山県を拠点に、中国・四国地方で101店舗のスーパーを展開する、株式会社ハローズ(3)の商品管理室長、太田光一氏に伺いました。
2023年の恵方巻販売では、合計31万本、1億7千万円も売り上げたそうです。1店舗あたり、3,000本も売れたことになります。すさまじい数ですね。これだけ売っていながら廃棄率は非常に低く、2022年には恵方巻の廃棄率は0.16%だったのが、2023年には0.00004%と、ほぼゼロに近づいたそうです。
2023年 全店(101店舗) 廃棄金額 6,664円
2022年 全店(96店舗) 廃棄金額 159,184円
通常のスーパーの廃棄率はどのくらいなのでしょう?
2019年に、大手スーパー営業部長に取材した際、「例年だと、恵方巻の廃棄率は20%から30%ぐらい。他の惣菜に比べて特に多いわけではない。すぐに売り切れる量しか置かないと、売り切れたときにお客様に申し訳ないし、機会ロスが発生する。少し多めに置くのが、スーパーマーケット業界での鉄則」と答えていらっしゃいました。この「20〜30%」に比べると、ハローズの廃棄率は非常に少ないと言えます。
筆者注:おそらく、この「廃棄率」は、実際に捨てたパーセントではなく、全量を定価で販売できた際の売り上げ予算と、廃棄を回避するために値引きをし売り切る努力をした売上との差(ロス率)を指しているものと思われます。
恵方巻の食品ロスが及ぼす経済・環境・社会への影響
<経済面>
2023年の恵方巻売れ残りの経済損失は約12億円相当
日本のコンビニ店舗数は、55,838店舗です(4)(2022年12月現在)。スーパーマーケットの店舗数は、23,028店舗(5)(2022年12月現在)。スーパーとコンビニの合計店舗数は、78,866店舗です。
今回の調査対象店舗数と同じ程度の売れ残りが全国で発生していた、と仮定すると、その売れ残り本数は256万5,773本になります。
売れ残っていた恵方巻のうち、価格を記録できたものは345円〜1,718円でした。仮に1本500円と仮定し、前述の売れ残り本数に掛け算すると、約12億8,288万円となります。
2019年には16億円程度(6)、2022年には10億円程度と試算(7)しましたので、2023年の12億円は、2022年より少し増えた計算になります。
2023年2月3日22:13、恵方巻が76本残っていた大手コンビニの店頭(関係者提供)
<環境面>
1,354トンの二酸化炭素を排出し、3億789万リットル以上の水を費やす
環境省の食品ロスダイアリー(8)を使って、二酸化炭素の排出量と、恵方巻を作るために使われた水の量を推計しました。
恵方巻の重さは、スーパーで販売されていた219gのものを便宜上、使いました。その内訳は、米飯が155g、卵29g、魚介類35gです。これを、食品ロスダイアリーの計算式にあてはめます。
1本の恵方巻が捨てられた場合、排出される二酸化炭素の量は528g、使われた水の量は120リットル。これに256万5,773本を掛け算すると、二酸化炭素の排出量は1,354トン(13億5472万8,144g)、使われた水の量は、3億789万2,760リットルになります。
大量の食品ロスを出すことは、大量の二酸化炭素を排出し、膨大な水資源を浪費することにつながります。
<社会面>
256万人が1本ずつ食べられた
恵方巻256万5,773本が売れ残った場合、1人1本ずつ配れば、256万人以上の人が食べることができたはずでした。
現在、東京都内でも、毎週、食料配布の列に人々が並んでいます。毎週土曜日14時から食料配布を続ける「もやい」の大西連さんは、ここ最近の人数が600名を超えていることを報告しています。私が取材した2022年6月には500名台でしたが、ここに来て増えています。
過去最多だった先週よりは減少し、613人の方に食料品やカイロのセットをお渡ししました。
相談は90件。
月の初めということもあり、人数は少し減りました。ただ、2月以降、さらなる食料品等の値上げが報じられています。
多くの方に経済的なダメージが及んでいます。
考察
まだ食品ロス削減推進法が施行されていなかった2019年2月の節分に比べれば、予約制の導入や、売り切り方式などで、ずいぶん改善してきました。とはいえ、同じ企業でも、店舗によってかなりの差があることがわかりました。
また、値引き販売で積極的に売り切るスーパーと比べると、コンビニは、早い段階から値引きをしないため、かなり多くが売れ残っている店舗がありました。
2019年から2023年までの、食品リサイクル工場への納入量を見てみると、2019年から凹凸はあるものの、徐々に下がってきている傾向にあることは評価できます。2021年は、コロナ禍による時短営業で、最も少ない傾向となりました。
2022年と2023年の差は、微妙です。全体の納入量は減少傾向にあるものの、実際の店舗を見てみると、リサイクルされる量が減り、焼却処分される量が増えている可能性もあります。なぜなら、日本の食品ロスを含む生ごみのほとんどは焼却処分されており、リサイクルされているのはほんの一部だからです。
2019年から2023年までの恵方巻売れ残り納入量の推移(日本フードエコロジーセンター提供)
提言
<行政>
予約販売を呼びかけるだけでなく、日頃から廃棄量公開を義務化し、企業にペナルティを科す
農林水産省は、ここ数年、小売企業に対して、予約販売を呼びかけています。それ自体はよいのですが、内情は、予約販売「も」やるけど、当日売りもやるよ、ということ。
「うちはやってますよ」というパフォーマンス、食品ロス削減をやっている「ふり」やアピールになってしまっている企業があるのは否めません。
本気でやる企業なら、コンビニのポプラのように、予約販売「だけ」をやるでしょう。
当日売りもやるなら「売り切りごめん」にするでしょう。
平成21年度から、食品廃棄物の発生量が100トンを超える事業者(=食品廃棄物等多量発生事業者)は、毎年度、主務大臣に対し食品廃棄物等の発生量や食品循環資源の再生利用等の状況を報告することが義務付けられています。令和2年度にもとりまとめ結果が公表されています(9)。とはいえ、合算では、どの企業がどれだけ廃棄したかはわかりません。
コロナ禍に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻により、食料安全保障の重要性が問われる昨今、貴重な食品を捨てたら損をする、最後まで使い尽くしたら得をする、という当たり前の社会に変えていかなければなりません。現状では、捨てようが、企業の本社(あるいはコンビニ本部)には利益が残る構造になっています。だからこそ、捨てても捨てても赤字にならず、企業経営が成り立つのです。
フランスの法律では、一定面積以上のスーパーが売れ残り食品を廃棄すればペナルティが科せられ、イタリアの法律では、事業者が食品廃棄を防げばインセンティブ(税制優遇)が得られます。日本は、そのどちらでもないから、倫理観に欠ける食品事業者のロスはいつまでも減らないのです。
2021年に開催された、東京オリンピック・パラリンピックでは、ボランティア向け弁当が30万食処分されました(2億6,769万円相当)。これも、無観客が決定したにもかかわらず、有観客の前提で弁当を作ったために、大量に余り、処分せざるを得なくなったのです。捨てても何しても損しない、決められた数だけ作れば儲かるとなれば、誰も数の調整などしないでしょう。
農林水産大臣の記者会見では、「数を把握するのは難しい」とのことでした。でも、節分当日のコンビニに行ってみれば、ある程度の状況はつかめるのではないでしょうか。我々は2019年から5年間実施しており、それによって、状況をある程度把握しています。不可能ではないはずです。
<小売>
予約販売に加えて売り切りごめんで
予約販売「も」やる、だけではなく、当日売りに関しては、必ず売り切る「売り切りごめん」で販売していただきたいです。
海苔も、魚介類も、野菜も、米も、貴重な資源です。
日本フードエコロジーセンターに納入された、まだ食べられる食品(日本フードエコロジーセンター提供0
<消費者>
売り切る努力をしている店で「一票を投じる」買い物を
いつ行っても、どこでも何でもある、という店がよいのではありません。
貴重な食資源を大切にし、その日しか売れないものはその日じゅうに売り尽くす、食べ尽くす努力をしている店こそ、応援すべき店です。
買い物は、個人的な行為と考えがちですが、「買い物は投票」と言われるように、一票を投じる気持ちでする。買われない店や商品は廃れていきます。逆に、未来に残したい店や商品は、応援の気持ちで一票を投じる(購入する)。
恵方巻は、命と資源の結集です。寿司は、2月3日に食べるだけのものではありません。
すべての食べ物に対し、愛情と敬意を抱いて食べ尽くすことこそ「福を呼ぶ」行為のはずです。
謝辞
お世話になったみなさまに感謝申し上げます。
社会人ボランティア:岩田和音様
大学生ボランティア:
清泉女子大学 文学部 地球市民学科 今仲友来様
大学生インターン:
南山大学国際教養学部 小坂井美星様
千葉大学国際教養学部 鈴木はるか様
慶應義塾大学総合政策学部 関根奈央様
参考資料
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/ehoumaki2023.html
https://www.japan-fec.co.jp/index.html
https://www.halows.com
https://www.jfa-fc.or.jp/particle/320.html
http://www.j-sosm.jp
https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20190204-00113564
https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20220207-00280797
https://www.env.go.jp/recycle/diary1.pdf
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syokuhin/s_houkoku/kekka/attach/pdf/gaiyou-113.pdf
https://diamond.jp/articles/-/116585
編集後記
2019年から毎年続けてきた恵方巻の調査。改善された面も、そうでない面も、両方ありました。
食料価格が高騰し続けている今こそ、本気で見直すべき問題です。
多くの方に伝わりますよう、願っています。
2023年2月7日
井出留美
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