日本の暮らしは地球何個分?世界各国の最新データを探る パル通信(4)

世界中の人が日本と同じ暮らしをしたら、地球何個分必要なのでしょうか。この数字、さまざまな組織がそれぞれの数字を発信しているようです。次の次の書籍を執筆するにあたり、調べてみましたので、シェアします。
井出留美
2021.09.14
誰でも

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世界中の人が日本と同じ暮らしをしたら地球何個分必要?

2021年8月20日に、広島のブーランジェリー・ドリアン、田村陽至さんを主人公にしたノンフィクション『捨てないパン屋の挑戦 しあわせのレシピ』を出版しました。

www.akaneshobo.co.jp

今、その次の本と、次の次の本に取り組んでいます。その過程で調べていたのが、「世界中の人が、日本と同じ暮らしをしたら、地球は何個分必要?」という数字です。これを「エコロジカル・フットプリント」といいます。この数字が1であれば、地球1個分の暮らしをしていることを示します。1より大きければ、地球1個では足りないということ。人間の生活を維持するためにどれくらいの土地面積が必要かを示しています。値が大きいほど、地球環境への負荷も大きくなります。この数字を減らすための一つの方策は「食品ロスを減らすこと」です。


「地球何個分」の基となるデータについて、書籍の編集長からフィードバックをいただきました。「WWF JAPAN(世界自然保護基金ジャパン)の記事に書いてあるが、Global Footprint Network(グローバル・フットプリント・ネットワーク)から引用しているので、この記事を引用すると、孫引きになってしまう。でも、原典は英語だから、文献が解読できない。井出さん、ご覧になれるでしょうか?」ということでした。(「孫引き」とは、原典から直接引用せず、他の本や記事に引用されたものをそのまま用いることです)


「グローバル・フットプリント・ネットワーク」の公式サイトを見てみると、「Country trend(国のトレンド)」というところで国名を入力し、「Number of Earths(地球の数)」を選べば、国別に、過去から時系列の推移とその値を見ることができます。


インターネット上の日本語の記事では、過去のデータが混在しており、最新の値がどれなのかわからなくなっています。元データをたどるのが必須だと思いました。

▷日本

では、日本のデータを見てみましょう。下のグラフの一番右側、2017年時点が最新のデータです。エコロジカル・フットプリント(必要な地球の数)は2.91個と出ています。1961年から1962年には1未満でしたが、1963年に1に転じています。高度経済成長期のグラフは右肩上がりですね。1973年のオイルショックでピークの2.24から落ちていきます。その後、バブル期に右肩上がりを描きますが、1995年以降、増減はあるものの、ほぼ同じ推移を保っています。リーマンショックの2008年の翌年には、やはり下がっています。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 13th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 13th, 2021)

今、インターネット上の記事では「2.8個」としているものが多いようです。これは2016年時点のデータなので、最新の数字は2017年の「2.9個」です。世界中の人が日本と同じ暮らしをすると、地球が2.9個必要、ということになります。

出典:WWF  「日本のエコロジカル・フットプリント 2017最新版」
出典:WWF  「日本のエコロジカル・フットプリント 2017最新版」




▷中国

では、世界で最も温室効果ガスを排出している国、中国を見てみましょう。2017年時点で2.32個です。1999年までは1未満でした。2000年に1になり、その後は右肩上がりで数字を伸ばしています。日本より小さい数字なのが意外です。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 13th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 13th, 2021)



▷米国

温室効果ガスの排出量、世界第二位の米国はどうでしょうか。2017年時点で5.03個。驚きなのが、1961年時点ですでに2.57個、2021年現在から振り返って50年前に、すでに今の日本と同じくらいの環境負荷をかけていたということです。ただ、2005年以降は減少傾向にあり、リーマンショック以降もその傾向が続いた上、ここ10年は5前後で落ち着いています。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 13th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 13th, 2021)



▷ロシア

温室効果ガスの世界排出第三位のロシアは、2017年時点で3.43です。1992年時点でも3.43でしたので、この30年間で増減はあったものの、30年前と同じ値ということになります。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 13th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 13th, 2021)



▷インド

温室効果ガス排出、世界第四位のインドは、2017年時点で0.75です。1961年から右肩上がりですが、まだ1には到達していません。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 13th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 13th, 2021)


▷アフガニスタン

今、連日報道されているアフガニスタンは0.42です。1961年から2017年に至るまで、1を超えたことはありません。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)



▷フィリピン

私が協力隊として活動していたフィリピンは、2017年時点で0.84です。1961年から右肩上がりではあるものの、1を超えてはいません。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)

G7(主要7カ国)のうち、日本と米国以外の国も見てみましょう。
▷英国

英国は2017年時点で2.63です。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)

▷フランス

フランスは2017年時点で2.88。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)



▷ドイツ

ドイツは2017年時点で2.94。日本と同程度です。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)


▷カナダ

カナダは2017年時点で5.05。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)


▷イタリア

イタリアは、G7の中では日本と同じく、1961年時点で1未満の数字を示していました。1965年に1になっており、2017年時点では2.76です。

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)

日本語の参考資料

日本語で書かれた参考資料としては、WWF JAPANの最新レポート(2017年版)が最新です。
データは古いですが、他に、下記サイトと書籍(2005年刊行)を示します。

『エコロジカル・フットプリント ──地球環境持続のための実践プランニング・ツール』

マティース・ワケナゲル、ウィリアム・リース[著]和田喜彦[監訳・解題] 池田真理[訳]定価:2200円(税込み2310円)合同出版=発行原著:OUR ECOLOGICAL FOOTPRINT

www.ecofoot.jp

日本に住んでいる人一人あたりのエコロジカル・フットプリントの推移

出典:WWF  「日本のエコロジカル・フットプリント 2017最新版」
出典:WWF 「日本のエコロジカル・フットプリント 2017最新版」

日本に住んでいる人一人あたりのエコロジカル・フットプリントは、1961年から増えています。1973年がピークで、その後、増減しているものの、さほど変わりません。二酸化炭素排出による負荷が全体の74%を占めています。

何が影響しているのか?

出典:WWF 「日本のエコロジカル・フットプリント 2017最新版」
出典:WWF 「日本のエコロジカル・フットプリント 2017最新版」

エコロジカル・フットプリントの数字に影響しているのは、食 27%、住居・光熱費 27%、交通 21%です。食の影響は最も大きいことがわかります。

どうすればエコロジカル・フットプリントが減るのか?

出典:WWF 「日本のエコロジカル・フットプリント 2017最新版」
出典:WWF 「日本のエコロジカル・フットプリント 2017最新版」

食品ロスを減らすことや、二酸化炭素の排出量を減らすことで、エコロジカル・フットプリントを減らすことができます。

他にも、食料などを購入する際には、持続可能な方法で生産されたものを選ぶことが挙げられます。

エコロジカル・フットプリントの国別データは、こちらから見ることができます。左側に示されている「Select Country or Regions」で国名や地域名を入力し、Number of Earths(地球の数)というところを選びます。

data.footprintnetwork.org

出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)
出典:Global Footprint Network (アクセス日:September 14th, 2021)

今日の書籍

2021年9月11日付の信濃毎日新聞に、タルマーリーの渡邉格(いたる)さん・麻里子さんの著書『菌の声を聴け』(ミシマ社)の書評を載せていただきました。インターネット上には掲載されていませんが、信濃毎日新聞社のご担当者は「井出さんに著作権があるので、テキストでしたら載せて構わない」とのことで、許可をいただきました。購読者限定ということで公開します。

『菌の声を聴け』

   渡邉格・麻里子著

 立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏による社会人講座に参加した際、出口氏は、戦後日本が長らく、与えられた仕事を黙々とこなし、長時間労働に耐える「製造業モデル」で進んできたための弊害を指摘していた。本書の著者は鳥取県智頭町で、発酵食品であるパンとクラフトビールを作り、カフェも併設する「タルマーリー」を営む夫婦。見えない微生物と対話を続けてきた彼らもまた、資本主義社会が経済性や生産性の向上を追求し、非効率性を排除してきた弊害に気づく。便利さを求めるあまり、職人やその技術が失われてしまったのではないか。

 欧州には「バイイング・フロム・アルチザン(職人からものを買え)」という言葉がある。パンはパン屋から買う。そうしないと職人の店がなくなってしまう、と。農業経済学の神門善久氏は著書で「本来、八百屋や魚屋は、単に物を売るだけの場所ではなかった」とし、「食材の産地や調理の仕方はもちろん、献立の相談にいたるまで、濃密な情報交換があった」とする。消費者がセルフサービスの気楽さや利便性を求めた結果、多くの小売店はお金と物の交換の場になってしまった。

 東京生まれの著者は2008年、自家製酵母と国産小麦だけで発酵させるパン屋を千葉で開業した。2011年の震災と原発事故を機に岡山へ移転し、15年に鳥取へ移転。そのたびに一からのスタートだ。効率重視の人からすれば非効率極まりないだろう。

 でも著者は、野生の(こうじ)菌を採取できる環境を求めて移転を繰り返したおかげで、菌が里山などの自然環境を映し出すことや、菌の使命感に気づき、菌の「パン工房の中だけでなく、外のことも考えて」という声を聴く。

 人間は、地球誕生のずっと後に生まれた新参者だ。コロナ禍は、自然への敬意や謙虚さを忘れた人間への地球からの警告とも感じられる。著者は、あとがきで「曖昧なものを曖昧なままにしておくのが、常に変化していく人間らしい文化」と書き、「完成」というゴールはない、とも。そう、自然界に完成はないのだ。

   (ミシマ社・1980円)

   【評】井出留美(ジャーナリスト) 本紙書評委員

   ◇

 著者の渡邉格は1971年生まれ、麻里子は78年生まれ。

以上です。著者の渡邉麻里子さんもツイートされていました。

今日の映画

2007年に公開された、マイケル・ムーア監督の『シッコ(sicko)』を観ました。「シッコ (sicko)」とは、「狂人」「変人」などを意味するスラングだそうで、「病気の」「病気にかかる」という意味の単語「シック(sick)」と掛けているとのこと(wikipedia)。



米国には国民皆保険制度がありません。フランスや英国、カナダ、キューバと比べて、いかに国民が医療を受けづらい状況にあるかを描いています。


映画の中で、医療を受けられないがために亡くなってしまう小さな女の子が登場します。このシーンで「expired」(エクスパイアード)という単語を使って死んだことを表現しているのですが、私はとっさに食品の期限切れをあらわす「expired」を頭に思い浮かべ、せつなくなりました。

こちらの対談記事には、日本も含めて、各国の医療制度を比較した表が載っています。

www.jacom.or.jp

編集後記

最近、韓国のお酒「チャミスル」を初めて飲みました。ワインも甘いのが好きなので、好みの味です。夕飯前に「マスカット」を飲んでいます。チャミスルの公式インスタグラムもありました。

www.instagram.com


日本では、宴会の時、最初の30分間と最後の10分間は席について食べ尽くしましょうという「3010(さんまるいちまる)運動」があります。長野県松本市で始まり、今では環境省もこれを推進しています。これを背景にして、食品ロス削減の日は10月30日と決まりました。2017年ごろの話です。


世界的には、2020年、食品ロス削減を訴える日は9月29日に決まりました。日本もこれに倣えばいいのに・・・と思いますが、この日にちなんでイベントを開催する団体はわずかです。

明日9月15日、バーチャル円卓会議「食品廃棄物の解決策を探る 米国と海外の成功例」がオンラインで開催されます。日本時間だと9月14日22時から23:30なので、夜型の人しか参加できないかもしれません(最初「9月16日」と書いていましたが、14日でした。申し訳ございません)。

米国、欧州、英国での、食品ロス削減のための政策やアプローチがテーマになっています。5つの都市と州(サンディエゴ、ナッシュビル、ロンドン、ミラノ、バーモント)の食品ロス対策のリーダーが、食品ロス削減で成功した取り組みについて語り、成功の要因についての洞察を話します。米国農務省が主催し、省庁の食品ロス・廃棄物対策パートナー、米国環境保護庁(チャンピオンのマイケル・リーガン氏が率いる)、米国食品医薬品局が参加します。登録はこちら

出典:USDA  "Exploring Food Waste Solutions: Success Stories from the U.S. and Beyond
出典:USDA  "Exploring Food Waste Solutions: Success Stories from the U.S. and Beyond



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それではまた、次回もどうぞお楽しみに!
2021年9月14日
井出留美